『浅草キッド』・松村邦洋が語る恩師ビートたけし「俺のマネをするならいい服着ろ、バカヤロー」

ビートたけし原作、劇団ひとりが監督・脚本を努め大ヒットとなっているNetflixの『浅草キッド』。幻の浅草芸人と呼ばれた深見千三郎と、その下で修行をはじめたビートたけしの師弟関係、そして芸人・ビートたけしの誕生秘話を描いている。この作品で、ビートたけし役を演じた柳楽優弥の演技指導を努めたのが、たけしのモノマネでおなじみの芸人・松村邦洋だ。今回、松村にとっての師匠とは…、そしてビートたけしという存在について、話を聞いた。（前後編の後編）【前編はこちら】『浅草キッド』・松村邦洋が柳楽優弥への所作指導を語る「まずはたけしさんを好きになってください」【写真】『浅草キッド』について熱弁する松村邦洋――『浅草キッド』のたけしさんと深見千三郎さんのように、松村さんにとって師匠にあたる方はどなたでしょうか？松村 片岡鶴太郎さんと高田文夫先生ですね。――片岡鶴太郎さんが松村さんを芸能界に導いてくれたそうですが。松村 テレビ西日本でケーブル捌きのバイトをしている時に、中継で訪れていた鶴太郎さんに声をかけさせていただきました。僕が素人モノマネ番組に出ていることを知っていた鶴太郎さんが「いつかお前に会うんじゃないかと思っていたんだよ」と言ってくれてうれしかったですね。――鶴太郎さんから教わったことってありますか？松村 鶴太郎さんは器用じゃなくて努力の塊だから、ネタ帳に一字一句細かく書いていたんです。だから僕も「こんばんは松村邦洋です」まで書いていて、それは今も変わらないんですけど、若い頃の爆笑問題さんには「『こんばんは松村邦洋です』はいらないだろう」と言われした(笑)。――春一番さんが鶴太郎さんの正式なお弟子さんなんですよね。松村 そうです。そうです。お正月に春一番さん、ダチョウ俱楽部さんと鶴太郎さんの家に集まって飲んだこともありました。みんなが帰った後、深夜１時かな、鶴太郎さんとふたりで話したことを覚えてます。――どんな話をしたんですか？松村 僕が年賀状に描いた絵を見て、(鶴太郎のマネで)「松村の絵、いいじゃないか。もっと描けよ」と言われました。鶴太郎さんとお話していると居心地がいいんです。鶴太郎さんが時代劇特番の『奇兵隊』(日本テレビ系)に大村益次郎役で出演するという話になった時、僕が「もともと長州藩内の村医者なんですよね」と言ったら、「よく知っているなぁ」と感心してくれて。大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)で摂津晴門役が決まった時は、鶴太郎さんから「どんな人物なんだ？」と連絡がきたんです。情報をまとめたメモを写真に撮って送ったんですけど、「縦書きじゃなくて横書きにしてくれ」「字が小さくて見えない」と言われて何度もやり直すことになりましたけど(笑)。――今もお付き合いがあるんですね。松村 最近は、放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)の話もしました。鶴太郎さん、大河ドラマ『太平記』で北条高時を演じてますから。『鎌倉殿の13人』って、芸能人に例えるとわかりやすいんですよ。そのへんは僕が書いた『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』(プレジデント社)を読んでいただいて。――わかりました！ 高田文夫さんについてもお聞きしたいです。松村 デビュー時から目をかけていただいて、高田先生がいなかったらタレントを続けていないと思います。高田先生はお酒を飲んでいると「そうなんですよ」と敬語になるので心地いいんですよ。僕はうれしくなって「それで？」とタメ口で聞いたら怒られましたけど(笑)。――たけしさんも特別な存在だと思います。最初にモノマネしたのはいつ頃でした？松村 中学生の時は一枚刈りの坊主頭だったんですけど、『戦場のメリークリスマス』撮影時のたけしさんも坊主頭だったので、よく同級生から「たけしだ」と言われて。その頃はモノマネのレパートリーになかったんですけど、首を傾ける動きをやったら、みんなが「100点だ」なんて喜んでくれるから、(たけしのマネで)「というわけでございまして」「バカなことばかり言ってますけどね」と声マネもするようになったんです。――たけしさんのことは好きだったんですよね。松村 もちろん好きで、『スーパーJOCKEY』(日本テレビ系)や『天才・たけしの元気が出るテレビ‼』(日本テレビ系)は欠かさず観てました。山口はフジテレビが映らなかったんですけど、テレビ山口と山口放送を同時に押すと砂嵐まみれのフジテレビ系列の愛媛放送が映るので、サングラスをしながら観ていたんです(笑)。もちろん『ビートたけしのオールナイトニッポン』も聴いてました。水道橋博士が同録のテープを持っていて、最近何本か借りた時は、懐かしくて聴きながら笑い涙が出てきましたね。――たけしさんに最初に会った時のことは覚えてますか？松村 鶴太郎さんに付いて『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)のスタジオに行った時、たけしさんから「あんちゃん、誰の付き人？」と聞かれたのが最初ですね。その後、僕も『ひょうきん族』に出るようになるんですけど、たけしさんから「あ、たけしが来てる！」と言っていただいて。――そこでやり合えるのが松村さんのすごさだと思います。松村 『爆笑ヒットパレード』(フジテレビ系)で僕がヘリコプター中継を担当していたんですけど、たけしさんに「うるせー、松村！ 黙ってろ。コノヤロー」と言ったら、「お前が松村だろ。コノヤロー」と返されて、僕が「いやぁ、執行猶予がようやく終わりまして」と続けたら、たけしさんから「ヘリコプター撃つぞ。コノヤロー」という声が飛んで。そんなやり取りがうれしかったですね。――松村さんは『スーパーJOCKEY』にも出るようになります。松村 『スーパーJOCKEY』で同じ服ばかり着ていたら、「お前、金ねぇのか？ 俺のマネをするならいい服着ろ。バカヤロー」と言われて、たけしさんのマンションで「これもやる」「これもやる」と服を渡されて、気づいたら200着くらいになっていたんです。――少し前だと、たけしさんを含む『アウトレイジ』の再現モノマネが見事でしたね。松村 『ラジオビバリー昼ズ』(ニッポン放送)にたけしさんがゲストでくるという時に、高田先生が体調を崩されて、僕がインタビューすることになったんです。僕が「『アウトレイジ』のあのシーンはどうだったんですか？」と再現しながら質問して、たけしさんが話そうとすると、「そのシーンもよかったですよね」とまた再現が始まって。そんなことを繰り返していたら、たけしさんに「さっきからお前が質問して、お前が答えてるじゃねぇか！ 松村の独演会じゃないんだぞ。バカヤロー」と怒られました(笑)。翌日、『探偵！ナイトスクープ』(朝日放送)にたけしさんがゲストでいらして、「お前、よく観てるなぁ。『ニュースキャスター』(TBS系)で４分やるから『アウトレイジ』をまとめてこい」と言われたんです。それで、『ニュースキャスター』で『アウトレイジ』を再現したんですけど、安住さんが「もう映画を観なくてもいいですね」と言うもんだから、たけしさんに「松村、さっさと帰れ！ バカヤロー」と怒鳴られました(笑)。――松村さんにとって、たけしさんはどんな存在ですか？松村 中学生の頃からずっと憧れの存在です。これだけ長い間、芸能界のトップで活躍されている方は数少ないので、もはや歴史上の人物と言っていいと思いますね。