板谷由夏が高橋伴明監督の最新作、映画『夜明けまでバス停で』に主演する。本作は、バス停で寝泊まりしていたホームレスの女性が突然襲われる、という2020年冬に起きた事件をモチーフに、誰しもが置かれるかもしれない“社会的孤立”を描いた社会派ドラマ
コロナ禍でホームレスに転落してしまう主人公・三知子役を演じた板谷に、役作りや本作で伝えたいメッセージなど話を聞いた。(前後編の後編)

【前編はこちら】板谷由夏17年ぶりに映画主演「高橋伴明さんが映画を撮るなら断る理由が1つもない」

【写真】17年ぶりに映画主演する板谷由夏の撮り下ろしカット【8点】

──主人公の三知子は、コロナ禍によって仕事と家を同時に失い、ホームレスに転落してしまう役どころです。三知子に共感できる部分はありましたか。

板谷 人のことなら心配して言葉に出せるような、おせっかいなことも出来るのに、自分のことになったらいきなりシャッターを閉めちゃって、素直になれない。そういう意地っぱりさ。それは私にもあるから、すごく分かるなと思いました。でも、女性ってみんなどこかしら、そういう部分があるんじゃないかな。素直にきついとか、言えないことも多いじゃないですか。そこは同じように共感してもらえるんじゃないかなと思います。

──三知子を見ていて「こうしたらいいのに」と思ってしまった部分もありましたか。

板谷 そうですね。私だったらもっと「助けて」を言うかなぁとは思いましたけど、三知子はなんで言えなかったのかな……。
難しい部分ですよね。三知子は家族関係がうまくいってなかったし。きっと、同じように頑張り続けているのに「助けて」が言えない人ってたくさんいるんだろうなと改めて思います。

周りに助けてくれる人が必ずいるから頼ってほしいと思う気持ちもありますけど、お金のこととか人に言いにくいし。本当に難しいなと思います。

──自分から言い出すのも難しいですし、手を差し伸べても素直に受け取ってもらえないこともありますよね。

板谷 自尊心なんでしょうね。やっぱり日本の教育ってもともとが耐えるもの、我慢や忍耐が美徳みたいな考え方があって。人に助けを求めるなんて恥とか、意地を張れとか。そういう教育だったから、「助けて」と言えないことにも気付いてない方が少なくないのかもしれない、と思います。

三知子は前の旦那の借金を返していたくらいだから、自分で何とかしようという気持ちも強いんでしょうね。だからこそ、誰にも助けを求められずにバス停に寝泊まりするホームレスにまで落ちてしまう。
そういう環境でずっと生きてきていたら、簡単には「助けて」と言うことすら出来ないのかなと思いました。

──主人公の三知子がホームレスに転落してしまったのも、コロナ禍という自分ではどうにも出来ない状況に巻き込まれてしまったことから始まっています。板谷さんがそういった状況に陥ってしまったら、どうやって気持ちを立て直そうと思いますか。

板谷 どうするかなぁ。出来れば、巻き込まれる前に匂いというか、気配で避けたいですよね。そういう野生の勘は持っていたいですけど、出来るだけネガティブにならないようにするかなぁ。ネガティブな方に進まないように、這い上がろうという気持ちを作ることを意識すると思います。

──板谷さんには、ポジティブな印象がありますよね。

板谷 もちろん落ち込むときもありますよ。でも、落ち込むけどそこから這い上がるのがすごく好きなんです。行くとこまでどーんと落ち込んでしまえば、あとはとにかく上がるだけだと思っちゃうタイプなんですよね。そういう意味ではポジティブですね。
ある程度、落ち込んだらあとは前向きに考えます。やっぱり人生は楽しまないと損ですから。楽しんだもん勝ちです(笑)。

──本作では、コロナ禍の前後がリアルに描かれていたのも印象的でした。コロナ禍において、ご自身の変化を感じる部分はありますか。

板谷 すごくシンプルな考え方をするようになりました。後悔したくないという気持ちも強くなったし、制限があるからこそ、そのなかでやりたいことをやっておこう、というところに行きつきましたね。そういう意味では、すごくシンプルな気持ちになったように感じます。

今もまだコロナ禍ですけど、最初はとにかくずっとご飯を作っていた印象が強いです(笑)。学校がずっとお休みだったから、それが大変でした。私たち大人は我慢も出来るけど、子どもたちはかわいそうだなとも思います。制限があって、お友だちの顔が見えなくて、グループでご飯が食べられない。
騒ぐのも気にする必要がある。彼らが大人になったときに、きっと“子どものときにコロナ禍を経験した世代”というようなカテゴリが出来るんだろうなと思うとかわいそうな気もします。

──家庭と仕事の両立という大変さもあると思いますが、仕事を続けるなかで一番大事にしていらっしゃることはなんでしょうか。

板谷 ここまで続けられたのは、人との出会いがあったから、だと思っています。自分にとっては出会いが一番大事なことですね。出会えているから、続けさせてもらっている。そう思います。

この映画も伴明さんが「板谷、どう?」と、20年前の出会いを大切にして声をかけてくれたことが始まり。だからこそ、全力で応えるしかなかったですけど。出会いってループするんですよ。過去の出会いが繋がったり、他の人との出会いになったり。これからも出会いを大事にしていきたいなと感じます。


──最後に改めて本作について、メッセージをお願いします。

板谷 女性が主人公の作品ですが、性別関係なく、今の時代同じようなことを経験された方がたくさんいらっしゃると思います。ついつい意地を張ってしまったり、自分で何とかしようとしてしまったり。でも、苦しいときには近くの人に「助けて」って言ってもいいんじゃないかな。そういうメッセージが詰まっている映画です。コロナ禍の物語なので、身近に感じすぎて痛いと思うシーンもあるかもしれませんが、たくさんの方に観てほしいです。(取材・文 吉田光枝)

▽ヘアメイク:結城春香
スタイリスト:古田ひろひこ
衣装:SINME
編集部おすすめ