一晩のシャンパンタワーに300万円、「担当」たる彼の売上のためにパパ活・風俗で働いてまでホストに貢ぎ続ける「ホス狂い」の女性たち。なぜ彼女たちはホストクラブから離れられないのか。
歌舞伎町のホテル・マンションを借りて、女性たちのリアルを取材し、このほど「ホス狂い」(小学館新書)を上梓したばかりの女性記者・宇都宮直子さんに不夜城の今を聞いた。(前後編の後編)

【前編】「ホス狂いはステータス」歌舞伎町で取材2年、女性記者が見た、ホストに貢ぐ女たちの不思議なポジティブさ

 2020年春から歌舞伎町で取材を始めた宇都宮さんは、ディープな取材のために「ヤクザマンション」との評判が立つ物件を借りて住み込み取材を敢行したこともある。歌舞伎町の空気を体感していくなかで、自殺や自殺未遂のあまりの多さと、それを当たり前に眺めている住人たちに遭遇した。取材のためにチェックインしたホテルからして、2日前に14歳の少女と18歳の少年の飛び降り自殺が起きたばかりの場所だったほど。

「歌舞伎町は未遂も含めて飛び降りが多いんです。でも慣れると『これは大丈夫かどうか』まで分かってくるみたいで、下から平然と眺めていたり、『道が混んでてムカついた』なんて反応するのが日常です。取材相手の『いちごチェリーさん』という女性は『人が降ってきて危ないからタクシーを使うの』と言っていました」

飛び降りが多発する理由は、施錠されておらず屋上に出られるビルが多いことと、ホストクラブへの「あてつけ」もあり目立つ形を選ぶのかもしれない。「目立たない自殺や表にならない傷害沙汰はもっと多いのではないでしょうか。ちなみに私が取材で入居したマンションはすべて事故物件でした」というほどだ。

 女たちの本音を取材してきた宇都宮さんだが、男の側も時には傷害事件で刺され、SNSに交際歴を暴露されるなどホスト生命を失うリスクを負っている。姫のご機嫌を取り続けねばならないホストたちの本音について「ほとんどの場合はムカついているでしょうね。いくらお金の関係といっても、あまりにも奉仕を要求する女の子たちにはホストも疲れ、弱音を吐く子もいます」

男の側も『推し』『担当』に貢献したい女の心情を利用して稼いでいる。
宇都宮さんによれば「『俺をアドトラックに載せてくれ!』っといった営業テクニックもあるんです」というように、実力主義のホスト業で生き残りをかけている。

 しかし、色恋を商売のタネにした関係がエスカレートすれば、2019年のホスト殺害未遂事件のような事態になるし、暴力沙汰を訴えられれば男のホストの方は圧倒的に不利だという。ホスト殺害未遂事件でも、加害者の女に比べ被害者のホストが省みられることは少なかった。「いくら色恋商売といっても、女の子の側が要求をエスカレートさせれば、お金だけでは許容できないこともあるのがホストの男の子の本音かもしれません」(宇都宮さん)

 トレンドを反映してか、ホストのファッションも変わった。ブランドもののスーツ、ギラギラのアクセサリーのようなカリスマホストのイメージは今では少数派で、当世のホストはカジュアルな服装で化粧も怠らず、中性的なファッションをしている。

「皆ものすごく痩せてて、竹ひごのような体型です。2.5次元や男性地下アイドルのようなルックスが好まれるからですが、歌舞伎町の外だと特異すぎて浮きます。付き合っている女の子たちでも『あの格好でディズニーランドには行けない』と話すような、歌舞伎町独特のファッションです」という当世ホストファッションである。

 金銭感覚も倫理観も、死に対する感覚すらも麻痺しそうな歌舞伎町での女と男の「どこか歪んだ支え合い」(宇都宮さん)が『ホス狂い』には描かれている。「ホストに狂う女性の本音・情緒を取材を通じて聴き、本書にまとめることができました。一方的に嘲笑や批判を浴びせるのではなく、彼女たちがなぜこの選択を後悔せず、むしろポジティブですらいるのか、その心理まで理解してほしいと思います。決して恨み節だけではない女たちの声がSNSで、あるいはメディアでオープンにできるようになった。
それが2020年代のホスト界の特徴かもしれません」

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