「ポスト安倍 加藤氏急浮上 再び要職 首相の信頼厚く」読売新聞にそんな見出しの記事が載ったのは2018年10月5日のことだった。昨年の内閣改造の際、自民党の総務会長に就任した加藤勝信氏。
東大経済学部卒で大蔵省出身。2度の落選を経験しながらも2003年に衆議院議員初当選。内閣特命担当相、厚生労働相を歴任し、ポスト安倍とまで言われるようになった氏は一体どんな人物なのか。「栃木県出身の眉毛ガール」井上咲楽が、“4人の娘”という共通点を振り出しにグイグイ切り込みます。
井上 加藤議員は4人の娘さんのお父さんだと聞きました。

加藤 そうですよ。井上さんも4人姉妹なんでしょう? 長女?

井上 はい。一番下の妹が今8歳なので、私とは11歳差なんです。

加藤 うちはね、一番下が18歳で、一番上が27歳かな。

井上 実際、娘ばかりだと大変ですか? というのも、私のお父さんが家ですごく肩身が狭そうで……。

加藤 あんまり家族のこと言うとあとで娘に怒られるけど(笑)、一番いろいろ気を遣うのはお父さんじゃないですか。例えば、お風呂から出てくるときはきちんとパジャマ着てからドアを開けるとか。
基本、娘たちに「やめてくれない?」と言われないように気を遣っているという感じです(笑)。

井上 その感じ、分かります(笑)。うちのお父さんは、上の3人に厳しくし過ぎてあまり相手にしてもらえないから、一番下だけはどうにか懐いてもらおうとすごく甘いんですよ。

加藤 それは私も言われていますね。「お父さんが甘いから、一番下がつけ上がるんだ」って(笑)。こちらは同じように接しているつもりなんだけどなあ。あとね、一番上の子が中学校に入って反抗期になったときは全然喋らないし、びっくりしました。

井上 私も反抗期の頃は「お父さんの洗濯物と一緒に洗わないで」と言っていました(笑)。

加藤 うちも陰では言われていたのかも(笑)。動揺したけど、2人目のときは「風邪みたいなものだからそのうち収まる」と落ち着いて見られたし、3人目のときはもう「放っておこう」と。ところが、4人目は反抗期がなくて。「何でないんだ?」と本人に聞いたら、「上の姿を見て、ああいうことはしたくないと思った」と言っていて、やっぱり下の子は上をロールモデルにして親との距離感を学んでいくんだなと感心しました。


井上 なるほど!

加藤 長女は長女で、「この家で私が頑張らなくちゃ」という意識を持ってくれているし、やっぱり責任感が強いと思う。

井上 自民党には二世、三世の議員さんも多いですが、加藤さんが政治家になろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

加藤 確かに私はサラリーマン家庭で育ちましたから、二世、三世ではありません。ただ、祖父が島根県の県議会で議長をやっていたんですよ。議会での姿は直接知らないのですが、議長を辞めた後にいろんな話を聞かせてくれました。だから、選挙速報の番組を夜遅くまで観ていたくらい政治に興味のある小学生で、政治の世界は身近なものでしたね。

井上 学生時代、政治に関心のある同級生っていましたか? 私は友達とそういう話をしたことがなくて。

加藤 僕らの時代は、少し上が学生運動をしていた世代なんですよね。だから、高校の頃は憲法改正みたいな大きなテーマから、身近な社会問題までけっこう議論しましたよ。もちろん、普段は彼女ができた・できない、先生がどうだこうだっていう話もしていましたけどね(笑)。

井上 ちなみに、『月刊エンタメ』はアイドル雑誌なんですが、加藤さんにとってのアイドルっていますか?

加藤 私にとっては勝海舟です。歴史を振り返ると、1つの国が国の形を保っていくことの難しさがよく分かります。国内の対立で国が割れることもあれば、他国の利益によって割れることもめずらしくない。
勝海舟は明治維新の目前、まさに日本という国が割れるかどうかのときに大政奉還を実現し、江戸城を平和裏に明け渡したわけです。そういう大きい視野を持って仕事を成し遂げたことは本当にすばらしいと思います。

井上 勝海舟がアイドルってやっぱり意識が違いますね。

加藤 また、大学を卒業するときも、国のために働きたいという意識から、中央官庁に入ったんです。

井上 その後、加藤さんは選挙で2度落選されています。途中で政治家を諦めようと思ったことはなかったんですか?

加藤 当時からずっと応援してくださっている方と話をすると、「あの頃、ずいぶん心配した」と言われるんですが、当の本人はまったく挫けてなかったんですよ。いつかは当選すると信じていましたね。

井上 今年の流行語大賞のトップ10に「ご飯論法」(「朝ごはんは食べなかったんですか?」という問いに対し「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが黙っておきます)」と答えた“すり替え”の論法)が入りました。これは裁量労働制や高度プロフェッショナル制度に関する議論での加藤さんの受け答えが発端になっていますが、ここまで話題になると思いましたか?

加藤 私は論法じゃなくて質問の問題だと思うんですよね。例えば、英語で「朝ご飯食べたの?」は「Did you have breakfast?」で、「朝、ご飯食べたの?」なら、「Did you have rice for breakfast?」になるでしょう? 後者を聞かれたと思えば、ご飯ではなくパンを食べたなら、「食べていませんよ」と言えますよね。

井上 確かに。でも、ちょっと引っ掛けっぽい感じもします。


加藤 そこで、「食べていません」のところに何かあると感じ、さらにやりとりしていくのが質疑だと思うんですよ。だから、別に話をすり替えて逃げているわけではないんです。

井上 ちなみに、好きな朝ご飯は? 

加藤 私はどちらかと言うと、朝はパン派です(笑)。もちろん、お米も好きですけどね。

井上 総裁選の後から、加藤さんが“ポスト安倍”としてメディアに取り上げられました。それに対してはどういうお気持ちですか?

加藤 総務会長になったこともあってそう言っていただけているのだと思います。政治家ですから、注目していただくのはありがたいですよ。ですが、まずは与えられた仕事をこなし、実績を1つずつ積み上げていくことが大事だと思っています。

井上 私は総裁選のときにいろんな討論会に行き、安倍さんの憲法改正に対する熱を強く感じました。三選が決まり、秋くらいには動き出すのかも、と思っていたのですが……。

加藤 安倍総理の強い思いもありますが、自民党としても憲法を変えていくべきだと思っています。憲法改正をするためには、最終的に国会での発議を経て、国民投票を行うという流れになるわけで、国民の皆さんの意識、理解が非常に重要になってきます。
なので、井上さんが総理の発言から憲法改正について関心を持ち、強く受け止めてくれたのはありがたいことです。

井上 総務会長として、党の中で意見をまとめあげるのは大変ですか?

加藤 そうですね。自民党の中の議論は、通常3段階になっています。まず政務調査会の各部会で分野別に議論をし、政調審議会にはかり、さらに総務会で最終的に審議していく。この各段階で本当に同じ政党なのかと思うくらいのさまざまな視点から議論を重ねるんです。けれどそうやって、難産ながら意見をまとめあげ、1つの形にしていくのが自民党らしいところだと思います。

井上 強さですね。

加藤 むしろ最初から同じ意見に集約されることはまずないです。各々の思いを吸収し、議論し、時には妥協しながら最後は1つの到達点に達していく。国会に提出されたときには党として賛成し、成立させていく。このプロセスを積み重ねてきた歴史への信頼が、自民党への支持の理由の1つだと思います。

井上 党内の意見をまとめる立場はストレスも多いと思いますが、加藤さんの発散の場は?

加藤 実はあまりストレスを感じないんですよね。
なぜかと言うと、物事を作り上げていくプロセスに関わる中で、まとめる喜び、作る喜びを感じるからです。

井上 仕事自体が息抜きの場だと?

加藤 そうですね。でも、リラックスできる場という意味では、家族でちょっと食事に行く時間が息抜きになっていますね。朝、少しゆっくりできるときは、妻と大学生の娘2人と近所の美味しいクロワッサンを食べに行ったりします。

井上 クロワッサン! いいですね。息抜きという意味でも、娘さんの影響って大きいんですね。

加藤 家族とはフランクにいろんな話ができるし、20代前後の人たちが何を考えているのか、生活ぶりを聞くだけで、私の仕事にとっても、すごくプラスになりますよ。

井上 今、若い人たちは政治に関心がないと言われていますが、そこは気になりますか?

加藤 若者の政治離れ、関心の低下はいつの時代も言われることです。だから、気にすることはないと思いますよ。むしろ政治の側が、若い人が関心を持ってもらえるように努力していかなければなりませんね。

「取材を終えて」~井上咲楽の感想~
総裁選後にポスト安倍として名前が浮上した加藤さん。取材までどんな方なのかドキドキしていましたが、お話してみると、家族の話を穏やかに語っていたのが印象的でした。気になる“ポスト安倍”と呼ばれることについても切り込んでみると、「国会議員になったらみんなそれを望んでいると思います」とにっこり。とても素直で素敵なお答えをもらいました。2019年もポスト安倍の方々から目が離せません!
加藤議員が <新たに選挙権を得た若い世代> に読んでほしい1冊
若い世代におすすめの本と聞かれると……何だろうな(笑)。僕が若い頃によく読んでいたのは、遠藤周作さんの小説ですね。『海と毒薬』や『沈黙』が特に印象に残っているかな。キリスト教を背景にした、“日本人でありながらキリスト教徒である矛盾”といった人間としての葛藤が描かれていて、すごく考えさせられました。今も色褪せないテーマですし、若い世代の方が読んだときに、何かプラスになったらうれしいですね。
いのうえ・さくら
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。
Twitter:@bling2sakura
現在は『サイエンスZERO』(NHK-Eテレ)をなどにレギュラー出演中!

かとう・かつのぶ
1955年11月22日生まれ、東京都出身。
2003年、初当選。安倍内閣では、官房副長官、一億総活躍担当大臣、厚生労働大臣などを歴任。2018年10月の党役員人事で、自民党総務会長に抜擢される。
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