【写真】ペネロペ・クルスがアカデミー賞で最優秀主演女優賞にノミネート、映画『パラレル・マザーズ』【9点】
〇ストーリー
フォトグラファーのジャニスと17歳のアナは、出産を控えて入院した病院で出会う。共に予想外の妊娠で、シングルマザーになることを決意していた二人は、同じ日に女の子を出産し、再会を誓い合って退院する。だが、ジャニスはセシリアと名付けた娘と対面した元恋人から、「自分の子供とは思えない」と告げられる。そして、ジャニスが踏み切ったDNAテストによって、セシリアが実の子ではないことが判明する。アナの娘と取り違えられたのではないかと疑ったジャニスだったが、激しい葛藤の末、この秘密を封印し、アナとの連絡を絶つことを選ぶ。それから1年後、アナと偶然に再会したジャニスは、アナの娘が亡くなったことを知らされる……。
〇おすすめポイント
スペインを代表するアート映画の監督であるペドロ・アルモドバル監督の新作は、『ボルベール〈帰郷〉』(2006)や『ペイン・アンド・グローリー』(2019)でも、アルモドバルが想像し、自信の体験から描く“母”の姿を体現してきたペネロペ・クルスが再びアルモドバル作品で“母”を演じる。
今作の演技によって、ペネロペ・クルスは第94回アカデミー賞において、4回目の最優秀主演女優賞にノミネートしたことでも注目を集めた。
アルモドバル作品は、赤を中心とした色彩でアート色が強く、時には監督自身の性的思考や実体験なども強く反映されていることもあり、初見では難解な部分も多かったが、今作は比較的わかりやすく、娯楽性も強い。
ところが今作の背景には、スペイン人の心の中にトラウマとして今も残り続ける内戦時のフランコ政権の問題がある。社会派な側面もあることに間違いはないのだが、あくまで母と娘の物語をメインにするために、共同墓地のエピソードなど、フランコ政権の問題をメインにしないように、極力抑えている。
それは主人公ジャニスの葛藤の中で、フランコ政権によって引き離された家族と同じ想いをさせないという使命感と母としての娘に対する想いが常に闘っているからだ。
しかしその葛藤部分は、作中では言語化されておらず、あくまでキャラクターの心情を読み解かなくてはならない。そのため各キャラクターに奥行を持たせるために、俳優ひとりひとりの演技力が試されるものとなっているともいえるだろう。
また同日に公開されるアルモドバルの短編『ヒューマン・ボイス』にも注目してもらいたい。
アルモドバルの数々の作品にインスピレーションを与えてきた、フランスの劇作家、ジョン・コクトーの戯曲「人間の声」を、ティルダ・スウィントンによるひとり劇として独自の解釈を交えつつ完成させた。1930年の作品ながらコロナ過を反映させたような世界観は、今でこそ映像化できたといえるのかもしれない……。
〇作品情報
脚本・監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノほか
2021/スペイン・フランス/スペイン語/123分
11月3日(祝・木)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、新宿シネマカリテ 他公開
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