【写真】ホストアイドル・KG9(ケージーナイン)のビジュアル
ようやくエンターテインメントの世界に『コロナ前』の日常が、徐々にではあるが戻りはじめてきた。
コンサートでは観客の声出しがマスク着用の条件つきながら解禁され、アイドルのファンサービスの王道だった握手会もマスクあり、ビニール手袋ありで復活。なにもかも元通り、というわけではないるが、この3年間、ひたすら我慢に我慢を重ねてきたファンにとっては、大きな大きな前進になる。
アイドルの取材をすることが多いのでコロナ禍でいろいろ考えた。卒業していったアイドルたちは、この状況を受け止めつつも、みんな『でも、やっぱり最後はファンのみなさんの声を聞きたかった』と悔しがった。まさに「失われた3年間」である。
握手会もできない、コンサートでもコールを飛ばせない。コロナ禍でさまざまな制限があるなか、逆にまったく新しい楽しさや喜びを作り出すことはできないものか? 考えれば考えるほど、これまでのアイドル応援文化がよくできたものであることを痛感した。
そもそも握手会はあくまでもオマケだった。
そんな握手会ができなくなった世界線で、ファンサービスってなんだろう? と考えこんでいたとき、ある異色のアイドルグループを紹介された。
それがKG9(ケージーナイン)である。
じつは彼らは現役の人気ホスト。まぁ、ここまでならさほど珍しくない話だ。人気どころを集めれば、ビジュアル的にレベルの高いグループは作れるし、いわゆる企画モノとしてはすぐに成立する。なんなら手売りすれば、CDはバカ売れ必至である。
だがKG9はそういったイージーな方策を選らばなかった。このグループを仕掛けた日本最大級のホストグループ・KGプロデュースは、昨年の春、2回に渡ってオーディションを開催。75名ものホストが参加したが、選考基準でもっとも重点を置いたのは自己PR力だった。ただただ人気者を集めるのではなく、やる気のある者、新しいものを生み出す力がありそうな者を探しだす作業からはじめたのだ。
さらにすぐデビューをさせるのではなく、半年以上の準備期間を設けて、しっかりと歌とダンスのレッスンを積ませている。これはスキルを身につけるためであるのはもちろんのこと、彼らに地味で辛い下積みの日々を味あわせる、という意味合いもあった。
ぶっちゃけ、どのメンバーもホストの世界では超売れっ子である。最初のオーディションで合格したメンバーは全員、ホストとして『1000万プレイヤー』。夜の世界で生きるのであれば、もう下積みなんて経験する必要などない。
だが、本気でアイドルに挑戦するのであれば、その栄光は忘れてもらわないと困る。基礎から叩きこむのにスター様感覚でいられたら、教えるほうだって困ってしまう。
そんな話を聞かされて感心していたら、もっと驚くエピソードをぶちこまれた。なんとアイドルになるためのレッスンにかかる費用はすべてメンバーの自腹、なのだというではないか!
たしかにお金はあるし、昼間の時間は空いてもいるのだろうが、夜の仕事の前にがっつりレッスンするのは、かなりヘヴィーである。それを自腹で……と思っていたら、衣装も自分たちでお金を出し、さらにはイベントの取材に集まった報道陣に振る舞われたアツアツのたこ焼きまでもが、彼らのポケットマネーで賄われていたのだ!
無名のアイドルは、みんなお金がない。別の業界からアイドル産業に参入した人が『私たちはチェキで生かされている。チェキ一枚が生命線ですよ』としみじみ語っていたが、活動費を捻出するためにコツコツと物販に励み、ファンサービスに力を入れる。
これまでのアイドルのあり方をKG9はひっくり返してくれるのかもしれないし、これこそが新しい時代の基準になる可能性もある。けっしてオマケではない極上のファンサービス……割とこれって革命的ではないか?
ホストとして稼いだお金をアイドルとして成長するために注ぎこんでいくKG9。これこそがリアルな自己プロデュースだし、ブレイクすれば投資したお金はすぐに戻ってくる……などと考えていたのだが、彼らは回収することなど、これっぽっちも頭になかった。ホストの世界で天下をとった男たちは、もっともっとどでかいリターンを求めていたのだ。
【後編はこちら】歌舞伎町ホストアイドル・KG9が面白い、「夜」のイメージを払拭して目指すは世界進出