天然とんこつラーメンの専門店として、全国に80以上の店舗を構える「一蘭」。味覚だけを研ぎ澄ましてラーメンを食すことのみに専念できるよう、両隣の席の間に仕切りがあり、目の前にはすだれがある「味集中カウンター」が、コロナ禍で「元祖フィジカルディスタンス」として注目を集めた。
ほかにも、同店が生み出したユニークで画期的なシステムは数知れず、常に新しい試みをし続ける同店が今年の3月から導入を始めたのが、アルバイトスタッフへの「給料前払い制度」だ。この制度が生まれた経緯を、株式会社一蘭の広報・五十嵐正和氏に話を聞いた。

【写真】コロナ禍で注目!一蘭の味集中カウンター

今年の3月1日より一蘭が導入したアルバイトスタッフへの「給料前払い制度」は、既に勤務した分の60%の額を、前払い給与として引き出せるようにするシステムだ。前払いの申請には専用のアプリを使用し、必要事項を記入するだけ。最短で申請の翌日に給与が前払いされるという。

給料日を待たずに給与が受け取れることで、急な出費にも対応しやすくなる。アルバイトスタッフにとっては有り難い制度に思えるが、やはり彼らからの要望の声が制度導入のきっかけになったのだろうか。

「実は、現場から希望があったわけではないのです。元々弊社では、全国に約6500人近くいるアルバイトスタッフの方が働きやすい環境を整えることが、非常に重要であると考えていました。近年、ライフスタイルも多様になり、ともなって働き方も多様化してきています。さまざまな働き方に対応する1つの策として考えたのが、『給料前払い制度』でした。要望を受けて始めたわけではありませんが、制度の導入を発表した時には『こういう取り組みは有り難い』という声が上がりました」

一蘭が取り組む、アルバイトスタッフの満足度向上のための制度は他にもある。


「接客や調理などさまざまな分野のスキルアップを目的とした『ライセンス制度』や、店の運営に貢献して得られるポイントを貯めて好きな商品と交換できる『インセンティブポイント制度』も導入しています。両方とも、スタッフの皆さんに楽しく働いてもらうために導入した制度です。楽しくて働きがいのある職場であれば、長期的に勤めてもらえますからね」

長く働くスタッフが多ければ、人手不足解消の効果もある。また、ベテランスタッフはスキルも高いため、より上質なサービスを届けやすくなるのだ。 

アルバイトスタッフが働きやすい環境づくりに力を注ぐ一蘭。その理由は、スタッフの満足度を高めることが、お客様の満足度を高めることにつながるからだという。

「我々は『最高のラーメンを、最高の状態で召し上がっていただく』というポリシーを、とても大切にしています。

『最高のラーメン』を、『最高の状態』でお客様にお出しするのは現場のスタッフの皆さん。ですから、彼らがのびのびと働ける環境でなければ、最高のサービスは提供できないと考えています。今回の『給料前払い制度』も、アルバイトスタッフの方の働きやすさをより良くしたいとの思いから、本社の労務チームや採用チームが考案したアイディアです。このように、一蘭ではスタッフの方やお客様のことを考えた新サービスの提案が、日々行われています」

なかでも大いに話題となったのが、小学6年生までの客に「お子様ラーメン」を無料で提供するサービスだ。一蘭公式アプリの”麺バー”になっていれば、大人1名につき5名分のお子様ラーメンが無料で提供される。
このサービスも、スタッフが実際に店舗で目にしたある光景がきっかけとなって誕生したそうだ。

「一蘭は『味集中カウンター』が有名ですが、店舗によっては仕切りが取り外せたり、テーブル席を設けたりと、ファミリー層もご利用しやすいよう工夫がされています。しかし、肝心のラーメンについては、親子で1杯を注文し、親御様がお子様の分を取り分けるという場合が多かったのです。取り分けている間に冷めてしまうし、麺も伸びてしまう。しかも、お子様と分け合うことを考えて、一蘭名物の『赤い秘伝のたれ』を入れるのを躊躇う親御様も多くいらっしゃいました。『赤い秘伝のたれ』には唐辛子も含まれていますので。でも『お子様ラーメン』の無料サービスがあれば、親御様も自分の食べたい味のラーメンが召し上がれますし、お子様もすぐに食べ始められます。親子ともに『最高のラーメンを、最高の状態』で楽しんでいただけるのです」

子連れで外食というと気を揉んでしまう親は多いだろうが、一蘭は、そう思う親でも安心して子どもを連れて行ける環境が整っている。そんな店舗だからこそ、今は老若男女が足を運び、客の男女比は半々ほどになっているそうだ。

「あくまで推測ですが、『味集中カウンター』があるお陰で人目も気になりませんし、味の濃さや麺のかたさの細かなオーダー、替玉の注文が“無言”でできるという点などが、お一人様客や言葉の壁がある海外籍の方などの来店ハードルを下げているのではないでしょうか。さらに、『味集中カウンター』や、声を出さずに替玉の注文ができる点は、感染症対策の効果もあります。元々は最高のラーメンを楽しんでもらうために考案された制度ですが、結果的にお客様に安心感を感じていただけるようになっていて嬉しいです」

ネットでも「一蘭はコロナ対策最強!」と、絶賛する声が多かった。
それゆえ、飲食業界全体がコロナ禍で苦境を強いられたなかでも、客数の減少は少なかったという。コロナ対策は万全なうえ、普段は店舗の前で行列を作っているインバウンド客は渡航制限の関係で来日が叶わない。安心安全で、いつもなら待ち時間の長い一蘭にスムーズに入店できるとあり、コロナ禍であっても訪れる客は多かったそうだ。

だが、コロナウイルスの流行も落ち着き、少しずつ都心に訪日外国人が戻ってきつつある今、再び一蘭の前には行列ができるだろう。並ばずに入店するコツなどはあるのだろうか。

「24時間営業ではない店舗なら、オープン直後か、アイドルタイムの15~18時の時間帯でしょうか。24時間営業の店は、意外と明け方の始発前が混雑するので、始発が動き出してから1時間後くらい~11時くらいの時間帯だと、比較的並ばずにご入店いただけるかと思います」

最後に今後の展望を聞くと、五十嵐氏は「やはり一蘭の根幹にある『最高のラーメンを、最高の状態で召し上がっていただく』という思いを大切に、メニューのブラッシュアップや店舗づくりにこだわっていきます」と意気込んで応えてくれた。これからも驚きのサービスを打ち出してくれるであろう一蘭の今後から、目が離せない。

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