お笑いコンビ・オズワルドの伊藤俊介が、『一旦書かせて頂きます』(2023年4月3日発売/株式会社KADOKAWA)を上梓。2020年4月から投稿していたnoteの記事、そして2020年9月に「ダ・ヴィンチWeb」でスタートした同名連載が収録された本作には、2019年から決勝に進出し続けている『M-1』への思いや、前コンビ時代の元相方とのエピソード、10年以上勤務したキャバクラボーイ時代の思い出、家族についてなどが綴られている。
今回は、自身初の著書発売を目前にした伊藤にインタビュー。初エッセイ集が完成するまでの道のりを聞いた。(前後編の前編)

【写真】エッセイ本を書いたオズワルド伊藤俊介

「お世話になってます」。この挨拶を聞いて、ちょび髭と丸メガネにサスペンダー姿、そしてあの“ファニーな”声を思い浮かべる人も、今や少なくないだろう。『M-1』決勝の常連組である実力派にして、テレビ番組でも大活躍を見せている人気コンビ・オズワルドのツッコミ担当、伊藤俊介のエッセイ本『一旦書かせて頂きます』は、まさに<もしも読みながら僕の声が脳内再生しているのならば>という本人の思惑通り、彼のひとり語りに耳を傾けているような読み心地を与える一冊だ。

「実は僕、これまで本というものを全く読んでこなかったんですよ。なので『まえがき』や『あとがき』もどんなものなのか分からず、手探り状態で書きました。一人で喋っているような感じになったのも、文章の書き方が分からないから、変にカッコつけないでおこうと思った結果です」

コロナ禍の自粛期間中に始めたというnote連載が、今回の書籍化に至った。「新しいものに対して信じられないくらい腰が重いところがある」ゆえに、パソコンの使い方が分からず、大学時代に書いた2万字の卒業論文もガラケーで作成したという伊藤だが、ネットにエッセイを投稿しようと思い立ったのは、ある芸人仲間からの一言に背中を押されたからだという。

「(2020年)当時は色んな仕事がキャンセルになったのもあって、『次のメシ何食べよう』と考えることくらいしか楽しみがなかったんですよね。『何かしなきゃ』とぼんやり思っていたときに、noteというサイトがあることを知りました。どうしようか悩んでいたら、カズ(カズレーザー)さんが『やってみたらいいじゃないですか。
これから新しい仕事を手に入れる人が増えると思うし』と言ってくれたんです。実際、うちの相方もギターを始めてオリジナルソングを作ったりしていたし、他の人達もそれぞれの活動が仕事に繋がっていたから、じゃあやってみようかなと。

音楽やYouTubeなど、いろんな手段がある中でエッセイを選んだのは、もともと書くことが好きだったからというわけではないです。最速でお金になる方法を考えると、記事が収益化できるnoteが一番手っ取り早かったんですよね(笑)」

noteへ投稿したエッセイがきっかけとなり、ダ・ヴィンチWebの連載がスタート。メディアでの書き仕事は、願ってもないオファーだったと振り返る。

「それこそカズさんが言っていたように、自分で始めたことが本当に仕事になったので、めっちゃ嬉しかったです。こんなこと言うのも悪いんですけど、ダ・ヴィンチで連載をするより、noteに記事を更新していたほうが、目先の金が入ってくることは確かなんですよ。でも僕は承認欲求の化け物なんで、評価していただけたことがただただ有り難くて。『書いててよかったなあ』と、素直に思いました」

ダ・ヴィンチWebの連載が開始してからはnoteでの執筆と違い、編集者のサポートを受ける機会も多く、大いに助けられたのだそう。一方で、自らは決して選ぶことのないテーマを提案され、二の足を踏むこともあった。

「『これは書けないよ……』っていうテーマを投げられることもあるんですよ(笑)。例えば、年末になると『M-1』について書いてほしいと言っていただくんですけど、これがやっぱりどうしても恥ずかしいです。
もしも自分たちが優勝してたら、全ての文字を最大サイズで書きたいくらいなんですけど、結局毎年『悔しかった』って書かないといけないので。それが大変だったところですね」

書き手自身の実体験が題材となるエッセイだからこそ、なかなか筆が進まないこともあった。なかでも特に戸惑ったのは、相方・畠中悠を書き下ろしのテーマとしてオーダーされた時だったという。

「『相方さんについて書いてください』と言われて、何度も断りました。結局、最終的には書いたんですけど。畠中について書くのが嫌だった理由は、確実に明日も顔を合わせなきゃいけないからなんですよ。相方って人間関係において本当に特殊だし、僕の人生においても異質な存在なんだと思います。一番近いのは夫婦なのかもしれないですけど、でも厳密には全然違う感覚です。なのである意味、この本を一番読んでほしくない人間は畠中ですね(笑)」

多忙なスケジュールの中、時には産みの苦しみを感じながら書き上げられたエッセイの数々。それらを一冊にまとめた本作に、どんな期待を込めているのだろうか。

「最近ヨシモト∞ホールで『第3回ムゲンダイチャンピオンシップ』というネタバトルの大会があったんですけど、僕ら、客票が最下位だったんですよ。そんなにスベった感じでもなかったのに。
ということはですね、これはもう僕のファンなんていないってことなんですよ! ……なので、『オズワルドはファンが多い』ということを見越してこの本を作ってくれていたとしたら、申し訳ない気持ちでいっぱいなんですけど。

でも本当に嬉しかったのは、劇場に全く来たことない、お笑いも興味ないけど、僕のnoteやエッセイ連載だけを読んでくれているという人たちもいる、ということを知ったときでした。一人喋りのようなつもりで書いていたんですけど、僕の声を聞いたことがない人も読んでくださっているんですよね。

もしかしたら中には、原作ファンが実写版の演者にがっかりする…みたいに、実際に僕の声を聞いて『こいつ、こんなニャガニャガ喋るのかよ』ってガッカリしちゃう方もいるかもしれない(笑)。でもお笑いファンはもちろん、そうでない人まで手に取っていただける一冊になればいいですね」

【後編はこちら】オズワルド伊藤俊介が初エッセイ本に込めた本音「妹、伊藤沙莉への思いを言語化できた」
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