現在公開中の『劇場版 美しい彼~eternal~』が、公開1カ月で興行収入5億円超えを記録している。同作は近年注目を集める「実写BL」作品だが、ヒットの要因は何だったのだろうか。


【写真】レビューサイトで軒並み高評価、『劇場版 美しい彼~eternal~』場面カット【7点】

そもそも「実写BL」が世に浸透するきっかけとなったのは、恐らくドラマおっさんずラブ』(テレビ朝日系)の影響が強い。2016年の年末深夜に単発ドラマとして放送され、連続ドラマ化した同作の反響は、社会現象を巻き起こすほどに大きく、放送前後で「BL」自体のイメージが変わる決定的な転換期となった。

実際に『おっさんずラブ』以降、実写BLは一般層にでも受け入れやすくなり、有名俳優が起用された作品も増え始めたように感じる。

例えばドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)は、西島秀俊内野聖陽が演じるゲイのカップルが主役。彼らの食生活を中心に「ゲイであることを周囲に伝えるか?」など、ゲイならではの悩みと向き合っていくストーリーだ。

また2020年公開の映画『窮鼠はチーズの夢を見る』はヘテロ役に大倉忠義、ゲイ役に成田凌を起用し大きな話題を呼んだ。ストーリーは男女の恋愛しかしてこなかった主人公が、ある日大学の後輩から告白されるというもの。だが同作には男性同士の恋愛だけでなく、男女の恋愛も登場させたことで異色のBL作品となっている。

他にもドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)は主演に赤楚衛二町田啓太を迎え、2020年10月期にテレビドラマ化。

人の心を読めるようになった会社員の主人公と、主人公に好意を寄せるイケメン同期との恋物語が描かれ、2022年には映画『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』が劇場公開されている。

人気俳優の起用や多様なストーリー展開が注目を集め、徐々にBL作品がいちジャンルとして確立していったのだ。

そして現在、ヒットしているのが『劇場版 美しい彼~eternal~』。
同作は2021年に地上波で放送されたドラマ『美しい彼』(MBS ほか)、2023年に放送したシーズン2の続編で、映画化は今回が初めてのことだ。

原作は『汝、星のごとく』(講談社)で2023年の本屋大賞を受賞した凪良ゆうの小説『美しい彼』(徳間書店)。シリーズ累計発行部数は70万部を突破している。

元々凪良はBL小説レーベル出身だったが、2017年発売の『神さまのビオトープ』(講談社)から一般文芸も手掛けるように。映画化も話題になった『流浪の月』(東京創元社)は第17回本屋大賞を受賞するなど、今やBL小説・一般小説関係なく活躍している。

そんな凪良が紡ぎ出す作品の特徴は、なんといっても巧みな心理描写だろう。その特徴が如実に表れているのが、彼女の執筆するBL小説なのだ。2019年に掲載された朝日新聞のインタビューでも「関係性をクローズアップしないとBLにならない。心の動き、絡み合いには力を入れてきた」と語っており、彼女のBLには主役ふたりの心の動きが繊細に紡がれている。

加えて凪良の作品に共通しているのは「世間と相容れない人たち」をテーマにしている点。BL小説や一般文芸で主役の描き方に差はなく、「互いのことを分かりあえずとも認め合っていく」という向き合い方を一貫して表現してきた。

例えば2015年発売の小説『ニアリーイコール』(新書館)は、人を愛することに臆病な主人公と、彼の優しい元同僚との日常生活を描いた物語。
臆病な主人公が元同僚と出会ってからまた人を愛せるようになるまでの心理描写と、彼らの関係性の変化が見どころとなっている。

『劇場版 美しい彼~eternal~』が好評を博しているのも、凪良の魅力である心理描写が俳優の演技や映像、音楽を通して見事に表現されたためだろう。作中では萩原利久、八木勇征演じるメインキャラのふたりが、すれ違いや葛藤を抱えながらも距離を縮めていく心理描写がおよそ100分にわたって描かれている。

それらの繊細な心理描写が観客の共感や感情移入を呼び、自ずと彼らを応援したくなるのかもしれない。つまり凪良ゆうが紡ぐ繊細な心理描写と美しいストーリーが観客に受け入れられ、ヒットに繋がったのだと考えられる。

映画のレビューサイトなどでも軒並み高評価をマークしている『劇場版 美しい彼~eternal~』。同作の評価をきっかけに、再び凪良のBL作品が映像化されることを期待したいところだ。

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