“2時間ドラマの帝王”・船越英一郎が6月3日にスタートする土ドラ『テイオーの長い休日』で主演を務める。演じるのは元2時間サスペンスの帝王で現在は仕事に恵まれない俳優・熱護大五郎という、まるで自身をパロディ化したような役柄。
熱護とは対照的に、常に第一線で活躍する船越に、2時間ドラマの魅力について話を聞いた。

【写真】ドラマで“2時間ドラマの帝王”役に、『テイオーの長い休日』場面カット【8点】

船越が演じるのは、ドラマ出演300作を超えるものの、テレビ局が2時間ドラマ制作から撤退したため、1年以上仕事がない俳優・熱護大五郎。自身と共通する部分も多いが、そのキャラクターは正反対だという。

「“元2時間ドラマの帝王ということで、これは僕のことなんだろうと思うかもしれませんが、熱護大五郎と船越英一郎は、性格的には対極にいる人間です。熱護は人情に厚く、涙もろく、俳優という仕事を愛してやまない。一言で言えばいい奴だとは思うんですが、あまりにも俳優としての矜持にとらわれ過ぎている。あるいは自分の中でルールを構築し過ぎて、自分に手かせ足かせをたくさん課して、自分の中の檻に閉じこもっちゃってるような男です。今風に言えば、コミュ障的なところがあって、オープンマインドで人と接するのが苦手。

対照的に僕自身はものすごくオープンマインドで、いろんな方たちと会話を楽しんで、なるべく明るい環境を作るタイプ。『僕もおなかを見せるから、どうぞ皆さんも僕の前ではおなかを見せましょう』というお付き合いを理想としています。そんな中から、いろんな信頼感も生まれていくと思っているんです。熱護はそうはいきませんからね。


自分ではない誰かを演じるという衣を1枚着てないと、人と相対することができない。言ってしまえば役者の権化みたいな男なのかもしれませんけど、そこが僕と似て非なるところです。同じ親から生まれたんですけど、育ての親が違う、育った環境も違う、そんな双子のような存在が僕と熱護なのかなというふうに思っております。二人の虚々実々を楽しんでご覧になっていただけるとうれしいですね」

熱護が2時間ドラマの主人公に扮して、事件を解決する場面があるなど、俳優・船越英一郎を彷彿とさせる設定が幾つも用意されている。

「これは制作者の意図でしょうけど、熱護が演じる幾つかの役は、船越英一郎が過去に演じた役とほぼほぼ似てるんです。たとえば初回で熱護は火災調査官を演じますが、これは僕が実際に演じた『火災調査官・紅蓮次郎』シリーズがモチーフになっています。ただ今回、僕が演じるのは熱護の演じる火災調査官な訳で、俳優としてものすごくハイカロリーなことを強いられるんです。

なぜなら一人で2役を演じ分けなきゃいけないですし、多い回では4役やらなきゃいけない。僕は今年7月で63歳になるんですけれども、皆さんが、いろんなことを船越英一郎に期待して新しい面を引き出そうとしてくれる。大変なことではありますけど、この年齢になっても新しい挑戦ができることはありがたいですし、何て素敵な仕事なんだろうと痛感します」

ドラマのテーマは“再生”。熱護の前に現れた3人の子持ちの元マネージャー・吉田ゆかり(戸田菜穂)と共に、再びスターに返り咲くために奔走する。

「熱護はマネージャーのゆかりさんと、彼女の子どもと触れ合うことによって、俳優としても人間としても再生しようと奮闘します。
ゆかりさんのほうも人生の再起を熱護に賭けていて、気づけば彼女の家族たちも再生していくんです。

現実の世の中でも、人類はコロナ禍という未曽有の経験をして、ご苦労された方たちもたくさんいらっしゃる。ようやくアフターコロナという言葉が聞こえてきて、明るい未来が開けたような気がします。でも辛かった時期に、コロナ禍から学んだこともたくさんあります。もしかしたら我々も再生の時を迎えているのかもしれません。そんな中で、視聴者の皆さんの背中を押すような、優しくて力強いドラマにしていきたいですね」

『テイオーの長い休日』では年齢を感じさせないエネルギッシュな演技を繰り広げているが、そのためには体のケアも欠かせない。

「もともと体質的に太ったり痩せたりが激しいんです。僕は『何が趣味ですか?』と聞かれたら食べることですから(笑)。その楽しみを奪われないようにするために、美味しく食べる・飲むために多少の努力はしようと心がけています。だから歩いたり走ったりもしますし、トレーニングにも行きますし、食べ過ぎた翌日は節制するようにしています。休日も主に体のメンテナンスに充てていますね。

筋力が弱ると動きにも支障が出ますから。
撮影中って普段は全く使わない筋肉を使うんですよ。その上、わりと僕はオーバーアクトの俳優ですから、昨日の撮影でも誰もそんなことは望んでないのに、自らソファーから転げ落ちたんです(笑)。やらなくていいことをやるので、今日も体が痛いです」

2017年に始まったドラマ『赤ひげ』(NHK)で演じる“赤ひげ”こと新出去定は当たり役となり、現時点でシーズン4まで作られているが、この作品を通して体の衰えを感じることもあるという。

「僕が演じる赤ひげは、ある程度恰幅がないといけないので、撮影に入る前に、ちょっと体重を増やすんです。僕は『特技は何ですか?』と聞かれたら、太ることっていうぐらい、あっという間に太れるんです(笑)。10日もあれば、5キロぐらい無理なく楽しく簡単に増やせます。要するに“禁欲”の“禁”を取ればいいだけですから。

クランクアップ後、1ヶ月ぐらいかけて元の体重に絞るんですけど、これが大変で。最初の4年ぐらいは成功してたんですけど、ここのところ本当に落ちない。代謝が落ちてきたんでしょうね」

現在は『テイオーの長い休日』の撮影で多忙な日々を送っているが、長い休日があったら、海外旅行に行きたいという。

「コロナ禍前は仕事が立て込んでくると、海外に行きたいってザワザワしていたんです。ところがコロナ禍でそれが奪われて、諦めざるを得ない。
それで3年も経つと、だんだん欲望が薄れていって、とうとうなくなってしまいました。僕はアンチエイジングの一番のサプリは好奇心だと考えています。海外に行きたいというのは好奇心の最たるものです。

まだ見ぬ国を旅してみたい、はるか遠くへ行きたい。それが自分の中から失われたってことは俳優としても致命的ですし、人としても非常に致命的。また海外旅行に行けば、必ず元の情熱を取り戻せると思うので、まずは実際に行って、再び自分の旅に対する欲望というものに火をつけ直さないといけないと思っています。船越英一郎を再生させるには旅が必要なんです!」

▽テイオーの長い休日
毎週土曜日夜11時40分から東海テレビ・フジテレビ全国ネットにて放送(6月3日スタート)。TVerでは最新話無料配信。FODでは最新話ま で全話配信。

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