5月26日より公開中の映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が好評を博している。漫画やアニメの実写化は基本的にヒットさせるのが難しいと言われているが、何故『岸辺露伴は動かない』の実写化はここまで成功したのだろうか。
結論から言えば、“良い原作改変”が功を奏したのかもしれない。

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『岸辺露伴は動かない』の原作漫画は、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのスピンオフ作品。第4部に登場したスタンド使いの人気漫画家・岸辺露伴にスポットを当てた物語で、形式としては1話完結型の短編集に近い。

そんな同作の実写TVドラマが2020年に制作され、「富豪村」「くしゃがら」「D.N.A」の3つエピソードが3夜連続で放送された。すると原作ファンのみならず『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズすら見ていない視聴者層からもたちまち評価され、同ドラマは2021年1月度の「ギャラクシー賞」テレビ部門で月間賞を受賞。漫画・アニメが原作の実写作品としては異例とも言える人気を博し、シーズン2やシーズン3も作られている。

そんな『岸辺露伴は動かない』の実写化シリーズを見てまず目を見張るのは、原作改変の上手さ。特に印象的なのは『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの代名詞とも言える、「スタンド(幽波紋)」に関する大胆な改変だ。

岸辺露伴は「ヘブンズ・ドアー」という相手を本にするスタンド能力を持っており、原作漫画ではスタンド使いとして能力を駆使して事件を解決したりしている。そしてスタンドには姿や形があり、「パワーを持った像(ヴィジョン)」と呼ばれることも。守護霊のように主人公のそばにいる「スタープラチナ」がオラオラしている図は、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズを読んだことが無い人でもなんとなく知っているだろう。

もちろん岸辺露伴のヘブンズ・ドアーにも姿や形があり、原作では白い服を着た少年のように描かれている。
しかし実写版では原作と同じようにヘブンズ・ドアーの能力を使うものの、ヘブンズ・ドアーのヴィジョンは出てこないのだ。

それどころか「スタンド」という言葉すら使われず、ドラマ内では「ギフト」のようなものと説明されている。ともすれば原作ファンの怒りを買ってしまいそうな大胆な改変だが、これが“実写ドラマとしてのクオリティ”の底上げに繋がっているようだ。

確かに漫画では違和感無く見ることが出来るスタンド能力だが、実写で同じように描こうとすると、どうしてもCGなどで表現しなくてはならないので画面の中で浮いてしまう。

また原作の『岸辺露伴は動かない』はバトル漫画というよりは、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)のような奇妙な出来事を描いた作品。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズよりも作風がリアル寄りなので、実写化にあたってヘブンズ・ドアーのヴィジョンを登場させなくても、そこまで不都合はない。

一方で原作のヘブンズ・ドアーを、岸辺露伴の原稿に描かれたキャラクターとしてチラリと登場させるニクい演出も。

これはそもそもヘブンズ・ドアーの姿が、岸辺露伴が執筆している架空の漫画『ピンクダークの少年』の主人公と同じ容姿という設定を活かした、原作ファンへのサービスと言えるだろう。ちなみに第5話のエンディングでは、『ピンクダークの少年』の原稿の一部が流れる演出も見られた。

他にも原作ではチラっとしか出てこない女性担当編集者・泉京香を“助手役”としてレギュラーキャラにしたり、ヘブンズ・ドアーの影響を受けた人の“本の種類”に個性があったりと、様々な実写版ならではのアレンジが施されている。そしてどの原作改変も、一つの実写ドラマとして面白くしようという方向にしっかり機能しているのだ。

一般的に“原作に忠実”がよしとされる実写化だが、これまでも小栗旬主演の『銀魂』や藤原竜也主演の『DEATH NOTE』のように、あえて原作から離れたことでヒットした作品は多い。
むしろ多少の改変は恐れず、実写作品としての面白さを追及した作品の方が、結果的に原作ファンからも評価されている印象だ。

ただ『岸辺露伴は動かない』の実写化シリーズに関しては、設定などの大胆な改変はあっても、物語の大枠としては忠実に再現されているのも勝因の一つ。原作のどの部分を残し、どの部分を捨てるのか、取捨選択のセンスが重要なのかもしれない。

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