映画コメンテーターの有村昆が、読者からのお悩みにあわせて、オススメ映画を紹介するシリーズ企画「映画お悩み処方箋」。第3回目の今回は、恋愛に悩むアラサー女性からの「彼氏ができない!」という切実なお悩み。
アリコンがレコメンドした恋に前向きになれる2作とは…?

【写真】今回の相談者におすすめする2本

▽相談
30代半ばになり、周りが結婚をしていく中、10年間まったく彼氏ができません。一時期は合コンに参加したり、積極的に恋活をしてみましたが、知らない男性と数時間飲んだだけで恋に発展することなんて、まずありません。後日誰かから誘われることもなく、疲れるだけなので行かなくなってしまいました。

マッチングアプリも利用したことがありますが、こちらが30代だと40~50代の年上の男性からしかイイネされず、リアルに会って話してみたいと思える男性はいませんでした。選り好みしすぎだと言われるのですが、別に若いイケメンと付き合いたいわけではないのです。ただ、ピンと来る方がいないのです。だけど、このまま一生ひとりなのも寂しいので、彼氏が欲しいという気持ちはあります。わがままでしょうか?
(女性 37歳)

切実な恋愛のお悩みといった感じですね。とはいえ、この相談者さんの考え方が少し自虐的すぎる気もします。問題のひとつは、自分の年齢を考えると恋に積極的になれない、ということでしょうか。

そこでまず観ていただきたい映画は『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』という作品です。エイミー・シューマーという、ちょっとぽっちゃりしたプラスサイズの女優さんが主演をしております。


彼女が演じるレネーという主人公は、今回の相談者さんと同じくらいの30代半ばで、化粧品会社のウェブサイト部門で働いています。レネーは、ちょっと卑屈な性格で、結婚したいけどイイ男に出会えなくて、週末はスナック食べながらアニメを観るようなインドア生活をしているんです。

そこで一念発起して自分磨きをしようと思い立ち、フィールサイクルという暗闇でエアロバイクを漕ぐというエクササイズをやってみるんですが、張り切りすぎて、落ちて頭を打っちゃうんですよ。それで記憶が飛んでしまって、ハっと自分の姿を鏡で見たら、綺麗なスーパーモデルが映っている。「あれ? 私こんなモデル体型だったっけ?」と、レネーは頭を打った影響で自分が絶世の美女に見えるようになってしまったんですね。

周りの人がレネーを見たら、以前と何も変わらないぽっちゃり体型なんだけども、レネーはもうすっかり自信満々。そこから彼女の行動が変わっていきます。化粧品会社の受付嬢になり、さらに上司にも認められて出世して、彼氏もできる。人生が上向いて順風満帆なんですけど、もう1回頭打って元に戻ってしまい、さぁどうする…というお話です。
 
映画ではモデルのようなビジュアルが実際に出てきますが、これは「自己暗示」のメタファーですよね。自分が本当にこうだと思ったら、その信念の強さが周囲の人も変えていく。

なので、この相談者の方も、まず「どうせ私なんか」という考え方を捨てていただいて、もっとポジティブに捉えてみてはいかがでしょうか。


まずは、なりたい自分をイメージして、服や髪型、メイクを変えてみる。さらに言葉遣いや立ち振る舞いも遠慮なく理想に近づける。嘘はダメですけど、「私は魅力にあふれている」という自己暗示をかけることで、本当にモテるようになるはずです。

それでも自信が持てないという場合は、「私は綺麗」とか、「私は自分のこういうところが好き」など、ポジティブな言葉を実際に発して自分を褒めてあげる。自信をつけるためには、褒められること。そんな人がいないというなら、自分自身で褒めればいいんです。

僕は言葉の力というのはすごくあると思っていて、例えば、 自分の子供にも「いつもありがとう」とか、「パパ嬉しいよ」のようなポジティブな言葉を常にかけるようにしています。それを普段から続けることで子供も「親から愛されてるんだな」って感じられると思うんです。

逆に「お前は馬鹿野郎だ」とか「なんで生まれてきたんだ」みたいな言葉をずっと浴びせられてたら、ひねくれちゃいますよね。

この言葉の魔法というのは、お金がかからないプライスレスな行動ですから、それを自分自身や周りの人にも発していくことで、様々な価値観も変わっていくんじゃないですかね。

お勧めしたい2本目の作品は『恋人たちの予感』です。1989年公開で、監督は『スタンド・バイ・ミー』などの名匠ロブ・ライナー。
そして、アカデミー賞にノミネートされたノーラ・エフロンの脚本が素晴らしいです。

ビリー・クリスタルが演じるハリーという男と、メグ・ライアンが演じるサリーという男女が、友人と恋人の間を揺れ動くというロマンティック・コメディなんですが、この作品の見どころはなんといってもラストシーン。ふたりはいろいろあって、別れることになったんだけど、最後にハッピーニューイヤーを祝うカウントダウンパーティで会うんです。

そこで「君しかいない」と愛を告げるハリー。サリーは「I LOVE YOU」と応えるのかと思ったら、「I HATE YOU」と言うんです。あなたのことが大ッキライだと。それでふたりは熱い抱擁をして結ばれるんですけど、これはそれまでのハリウッド映画の脚本にはなかった、裏返しのセリフによる愛情表現なんですね。

ハリウッド映画の脚本家は男性が多かったので、恋愛モノでも 最後に女性が「I LOVE YOU」と言ってくれるという、男目線の展開ばかりだったんです。ところが、ノーラ・エフロンは、 あえて「I HATE YOU」と言うのが女心だと。それがリアルで、共感できるということで、ハリウッド中が驚いたんです。

この『恋人たちの予感』が教えてくれるのは、 女性向けの恋愛映画でも、これまでは男目線で縛られていて、なかなか視点を変えられなかったこと。それを「真逆な言葉の告白」でひっくり返したこと。


相談者さんは、37歳でどうせ私なんかと思ってるけど、それは誰かの目線で判断してませんか。彼女から見たら不満ばかりかもしれないけど、逆側の目線から見たときに、全く違う世界が待ってるんです。

この映画には、もうひとつ有名なシーンがあって、ハリーとサリーがレストランで食事をするシーンがあるんです。そこでサリーが「ほとんどの女性はセックスの時に演技をしている」という話をするんです。疑うハリーに対して、サリーはとつぜん官能的な声を出しはじめて、周りのお客さんが注目するなかエクスタシーに達してしまう…。サリーはいたずらっぽく笑って、食事を続けます。

それまでの男性脚本家には書けないシーンですよね。だって、男性は女性が演技してるなんて思いたくないから。僕も若かりし頃に、この『恋人たちの予感』を見て固定概念を覆えされました。

これも学ぶ所は同じで、見方や考え方を180度変えてみるということ。あなたが思う自分の価値と、周囲から見た価値というのはぜんぜん違ってるので、自信を持って恋愛してください、ということだと思います。

▽お悩み募集中!
有村昆さんに映画を処方してもらいたい方は、お悩みと年齢、職業、性別を明記して以下のアドレスにお送り下さい。
採用された場合、当企画で取り上げさせていただきます。
entame@shoten.tokuma.com

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