映画コメンテーターの有村昆が、読者からのお悩みにあわせて、オススメ映画を紹介するシリーズ企画「映画お悩み処方箋」。第4回目の今回は、夫が毎晩泥酔してまともな会話ができないという深刻なお悩み。
アリコンがレコメンドした、お酒にまつわる2作とは…?

【写真】今回の相談者におすすめする2本

▽相談
夫が毎晩ストロング系チューハイのロング缶をたくさん飲んで泥酔します。酔って暴力を振るわれるということはないのですが、いつも身動きが取れなくなるまで飲み、部屋の中で放尿することもあります。子供のことなど、夫婦で話し合いたいこともあるのに、常に酔っているのでまともな会話になりません。離婚も考えましたが、子供がまだ小さいこともあり現実的に踏み切れません。また、夫のことは、毎日酔っぱらう以外はそこまで嫌いではありません。なんとかお酒をやめさせる方法はないでしょうか?(35歳 女性)

これはいわゆるアルコール依存症ぎみの夫に対して、どう対処していくかということですね。なかなか手ごわいお悩みですが、処方箋としてまず観ていただきたい映画は『ハングオーバー』という作品です。トッド・フィリップス監督、主演はブラッドリー・クーパー。ちょっと過激なコメディですが、世界中で大ヒットしました。

主人公たちは、結婚式を控えた男友達に独身最後のバカ騒ぎパーティを企画してあげるんです。ラスベガスのホテルの屋上で乾杯し、気がつくと翌日の朝になっている。全員、昨晩の記憶がまったくない。


部屋は荒れ放題で、なぜか赤ちゃんがいて、バスルームには本物の虎がいる。そして、肝心の花婿がいない。この、まったく訳がわからない状態から花婿を探し歩くなかで、前の晩になにが起きていたのかがだんだん明かされていくというストーリーなんです。

まず、この作品をシラフの時の旦那さんに観てもらいましょう。「酔っ払うと、大変なことになるよ」ということが伝わるはずです。それでもわかってくれなければ、旦那さんがお酒を飲んでグデグデになって、粗相しているところを動画で撮影する。相談者さんがリアル『ハングオーバー』を撮るんです。それを次の日に冷静な状態で見せる。旦那さんも、自分がヨレヨレになっている所を改めて観たら「俺はなんてことをしていたんだ」と反省して、お酒に気を付けなきゃと思うかもしれないじゃないですか。

『ハングオーバー』の本編でも、最後の最後にデジカメが発見されて、そこに残されていた写真がエンドロールで流れるんですよ。あれは面白くて、恐ろしくて最高なので、ぜひ最後まで見逃さないようにしてください。

そして飲酒に関連する映画として、絶対に観てほしいのはマッツ・ミケルセン主演の『アナザーラウンド』という作品です。
デンマークの映画なんですけど、原題は『DRUK』といいます。

マッツ・ミケルセンが演じる、真面目な教師が主人公なんですが、彼は人前に出るのが苦手でシャイな性格。それで生徒からもちょっとバカにされていて、人生が鬱々としているんです。そんな彼が、たまたまある哲学者が書いた論文を目にする。

そこには「血中アルコール濃度を0.05%に常に保っておくと、仕事の効率が良くなり、想像力もみなぎる」という理論が書いてあるんです。では、これを実証してみようと思い立つんです。

そこでまずお酒を飲んで、検知器でアルコール濃度を測って0.05%になった所で授業に望んだら、いつもより確かに調子がいい。まったく緊張しないし、授業も盛り上がって生徒たちからも人気が出る。すると、彼の同僚の教師たちも同じように酒を飲んで、自信を取り戻していく。すべてがうまくいき始めるわけです。

それで、みんなでこの生活を続けようということになるんですけど、そこはやっぱり人間なんですね。0.05%じゃ物足りなくなってくる。
なんか効いてないような気がするんです。それで、ちょっとだけならいいだろう、ということで度数を上げていくんですよ。それで先生たちはどうなってしまうのか…という結末はぜひ映画を観てもらいたいんですけど、もし、この『アナザーラウンド』の説が本当だとするならば、この相談者の旦那さんも血中アルコール濃度0.05%で止めてみたらどうでしょう? 

お酒を飲むのはいいけど、ほろ酔いにする。なので、まず「ストロング系」はやめようということですね。

人間って、だんだん濃いほうに向かってしまう。僕もよくペットボトルのお茶を飲みますけど、やっぱり「濃いめ」が欲しくなる。それもそのうち慣れて、だんだん何も感じなくなる。いや、これは個人的にもいろいろと反省する部分がありますね…。

あと、この映画で印象的なシーンがあって、先生が授業中に生徒たちに質問を出すんですね。

「みなさんは、いま1940年代に生きている有権者だと思ってください。これから1人の政治家に投票するとき、誰が選びますか」と、生徒たちに聞くんです。

1人目は、マティーニが好きで、いつも酔っぱらってて、女好きで、浮気性で、テンションが高い。


2人目は、アルコール中毒で、寝る前にはシャンパンとウォッカを飲む。それでも眠れない時は睡眠薬を飲む。 それにかなりのヘビースモーカー。

3人目は、酒もタバコもやらない。女関係もきれい。それに動物や子供を愛していて、礼儀正しい。

「この3人の候補者が政治家に立候補しました。さあ、皆さん誰に投票しますか?」

普通だったら、やっぱり3番目を選ぶでしょうね。劇中の生徒たちも3人目を選ぶんですが、 先生はそれぞれの候補者の種明かしをするんです。

1人目は、アメリカを勝利に導いたルーズベルト大統領。2人目は、イギリス首相だったウィンストン・チャーチル。彼の半生はゲイリー・オールドマン主演で映画にもなってますけど、あの作品で観る限り、確かに短気で不眠症で、ずっとタバコを吸ってましたね。


そして3人目、 もうなんとなく察しているかと思いますが、生徒たちが選んだのはナチスドイツを率いたアドルフ・ヒットラーでした。彼は酒もタバコも女もやらない。しかも動物と子供好きな男だったんです。

この質問が言いたかったことは、お酒自体が悪いわけじゃないということです。飲む量や、飲む人間そのものが問題に潜んでいる。

今回の旦那さんにも、お酒を飲みたくなる理由があると思いますから。まずはそこに向き合ってあげるといいかもしれないですね。

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