【写真】「東洋のドーバー」千葉・銚子の崖でロケを行った船越英一郎、場面写真など【9点】
本作は、2時間サスペンスの“帝王”船越英一郎が仕事のない偏屈な“テイオー”熱護大五郎を演じ、悩める人々の背中をガツンと押すヒューマンコメディ。ドラマは残すところ2話となり、「ひねりが毎回すごい効いている。あと15年くらいみたい」「意外などんでん返しがお見事すぎる、あと2話で終わってしまうなんて」と早くもテイオーロスを心配する声も上がってきている。
関東地方の上空に梅雨前線が停滞し、天候が不安定になっていた6月のある日。「崖」の上に集まった制作スタッフ達は、撮影の準備を着々と進めていた。当然のように雲行きは怪しく、万が一、雨が降り始めでもしたら、撮影が進められなくなる。いや、現に、ときおり小雨がパラつく時さえある。そうした切迫した空気感を変えるような、スタッフ「船越さん、入ります」という声が響く。
撮影ポイントから数百メートル離れて駐めてあったロケバスから、支度をすませた主役・船越が、黒のトレンチコートを身にまとってさっそうと歩いてくる。作業をしていたスタッフが全員、手を止め、“おはようございます”と出迎える。その挨拶を聞いた船越が、両手を広げながら、よく通る声で応えた。「ようこそ、わが職場へ!」
その崖は、船越がかつて2時間サスペンスの撮影で、幾度となく訪れていた“思い出の場所”。
千葉県銚子市のその「崖」は東洋のドーバーとも言われ、雄大な景観と地質学的な価値から国名勝・天然記念物に指定されている。江戸時代には歌川広重の浮世絵にも描かれた由緒ある「崖」であり、2時間サスペンスのロケ地としても、数限りなくロケ隊が訪れている伝説の「崖」と言っても過言ではない。
懐かしい“古巣”に、いま再び足を踏み入れた船越。「ここはさぁ、もう数えきれないほど来てるんだよ」と、旧友との再会を果たしたような船越のやわらかな表情が、とても印象的だった。いざ撮影かと思いきや、制作スタッフが「本日、船越さんから、カフェ・カーの差し入れがございます」と報告する。
実は、船越が現場にカフェ・カーの差し入れをする、というのは有名な話らしく、記者も共演多数の久保田磨希からその情報を聞いていた。だが 4 月末にクランクインしてから、約2ヶ月半。船越が “カフェ・カーの差し入れ” をできるタイミングは皆無だったのだ。これまで、ロケ地として使用してきたのがビルが密集するオフィス街や、閑静な住宅街だったため、車を駐車するスペースが確保できなかったのだ。
「今回はないかもしれないな」という声がスタッフからも聞こえ始めていた中、ついに伝説の崖ロケで、念願の差し入れが叶えられたかたちとなった。いや、むしろ崖、カフェ・カーというこれ以上ないビッグサプライズに、共演者とスタッフ全員の士気は最高潮となったのは間違いない。
さらに“崖の上の船越”の真骨頂は、現場でも発揮された。太平洋の波に洗われるその崖で、かつていくつもの作品の撮影を行い、「ここがわが職場であり、自分のテリトリー」と自認するだけあって、船越の “崖マスター”ぶりは、半端ない。シーンを撮り進めて、カメラマンが次のカメラ位置を決めている時にも、「あ、こっちは少し降りても大丈夫ですよ」「あそこから向こうは危ないから、絶対行っちゃいけません」とアドバイス。
現場にいるスタッフの誰よりも、その“崖”に詳しい船越だからこそ、説得力も安心感も半端ない。さらに “撮影スタッフの役をやっている共演者”に声をかけ、モニター用のヘッドホンをカッコよく耳にあてる方法をアドバイスをするなど、絵作りに関しても気を使う視野が広い “座長・船越” の活躍ぶりはまさに水を得た魚、いや獅子奮迅の働きと言った方がよいかもしれないものだった。
そして、その日の撮影のクライマックスシーン。船越演じる熱護が崖の上から海を見渡し、振り返りながら、「あなたが真犯人ですね」と決め台詞を言う設定のカット。
そこで、真正面に眼差しを見据え、カメラにまっすぐ人差し指を突き付けながら真相に迫るその映像は、まさに「ザ・船越」の真骨頂。その場にいたスタッフ全員が、惚れ惚れするようなシーンとなった。
午前は小雨もパラつく様相だった現場も、昼過ぎからは雲が切れ、陽もさすようになってきた。昼食休憩をはさみ、カフェ・カーでおいしい飲み物も堪能できて、現場のスタッフ達の表情も明るくなる。天気のせいだけでなく、この日のロケは、いつもの撮影とは違う、開放的な空気感に包まれていた。
通常の撮影は、画面内に撮影機材や制作スタッフの姿は、絶対に映りこまないように行われる。映っていいのは現場の背景と、演技をする出演者だけ。カメラの向く方向が変わる度に、その場にいる何十人ものスタッフは、一斉に「カメラの後ろ側」もしくは「カメラに絶対映らない場所」に、逃げるようにして位置を変えて、撮影を進める。
しかし、この日は “撮影現場のシーンを撮る” のが狙いのため、制作スタッフはむしろ “映りこんで、場の雰囲気をつくらなければならない” という立場。カメラマンも、撮影助手も、監督も、助監督も、プロデューサーも、録音担当も、美術さんも、ヘアメイクさん・スタイリストさんも、みんな、“逃げる”必要がない。
誰もが、スタッフとして実働しつつ、エキストラとして“出演”もする立場になっていた。また、カメラ・照明機材のスタンド類や、映像チェック用のモニター機材、俳優が休憩するための折り畳み椅子やキャンピングテーブルなどもカメラの死角に片付ける必要がなく、すべてが、堂々とカメラに映りこんでいい“撮影用小道具”となっていた。
こうした、 “いつもとは違う撮影条件”、そして梅雨空で心配だった天候の好転、さらに座長・船越の愛のある“差し入れ”の効果も相まって、この日の崖ロケ全体が、開放的でのびやかな雰囲気の中で進められた。
この素晴らしい崖ロケのシーンは、第7話からの展開を受けて、最終回第8話のクライマックスで放送される。船越といえば2サス。その極めつけとも言える場面が、どのように映し出されるのか。
第7話はいつもより10分遅い15日(土)23時50分から放送される。
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