2022年に公開されたインド映画の中で年間興収1位を記録した『K.G.F: Chapter 2』。日本でも英語字幕上映という限定的な上映であったにも関わらず異例のヒットとなったが、この度日本語字幕付きで、さらに前作の『K.G.F:Chapter 1』もまとめて7月14日に緊急公開が決定した。


【写真】『K.G.F:Chapter』シリーズ1&2場面写真

今作は南インドのカンナダ語映画であるが、ヒンディー、タミル、テルグ、マラヤーラム語などでも吹替え版が制作され、全インド映画市場の中でトップに君臨した作品だ。

そんなモンスター級シリーズの監督を務めるのはプラシャーント・ニール。

プラシャーントの初監督作品『Ugramm』(2014)を観たことがあればわかると思うが、この監督の手法は、かなり独走的。『RRR』の映像が常にクライマックス状態といわれていたが、今作も常にクライマックス……というよりも、全編が予告編のように編集されていると言った方が適切かもしれない。

今回上映される『K.G.F』シリーズでは、その手法がついに極まったというか、徹底的に開き直っている。演出やカメラワーク、音楽の使い方まで…チャプター1、2合わせると、約6時間予告編を観ているような感覚になる。

曲も、『Ugramm』からプラシャーント作品の音楽を担当するラヴィ・バスルールの重圧なサウンドに、サントシュ・ヴェンキーやサチン・バスラーといったカンナダ映画音楽界の中でも渋い歌声を持つアーティストたちが参加。よって、見事なサウンドトラックが完成した。

全体的にざっくりしている部分が無いわけではないし、主人公以外の物語があまり描かれていない。とくにリナとラジェンドラの親子の関係性が全く描かれていないのは、めんどうな人間ドラマ部分を勢いでごまかしているよう。ただ、前提として今作は娯楽作なのだから、それも許容範囲といったところだ。

細かい人間ドラマをそぎ落としているのに、それでも情報量が非常に多く、さらに圧倒的な画力から目が離せなくなってしまう本作。


ロッキングスターといわれているヤシュの圧倒的なカリスマ性も加わり、正に無双状態で、駆け引きや緊張感が必要とされるギャングの抗争を描いているというのに、ハイテンションで駆け抜けていく、まるで『マッドマックス』と『スカーフェイス』が混ざり合ったような作品なのだ。

かねてから近年のインド映画はハリウッド映画、特に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)の影響が強く出ているのだが、今作を観ると改めて実感させられる。

また、カナダのドラマ『ヴァイキング ~海の覇者たち~』に登場するラグナルからインスピレーションを受けたキャラクター、アディーラ(サンジャイ・ダット)との対決はバイオレンスコミックそのものだ。 

予告編やダイジェスト的な編集が必ずしも良いこととは限らない。最近の映画は、倍速再生で観られたり、TikTokやYouTubeのショート動画のような短時間でおもしろいものを詰め込むスタイルが主流。これは、インドでも一般化していて、10分ドラマや1分ソングなども出てきている。この問題は深刻に考えなければならない。

上映時間自体が長いとはいっても本作については、おもしろ要素がとにかく詰め込まれたという点では、Z世代にもウケが良いのかもしれない。しかし、プラシャーントの場合は、どうもそういった世間的需要や若者忖度を狙ったというわけではなさそうなのだ。

おそらくプラシャーントという監督の頭の中には、長期的なシリーズ構想があって、それを映画に落とし込むとなると尺が足らずに、どうしてもこういったスタイルになってしまっているというのが正しいだろう。

そう思えるのは、ここも描きたい、そこも描きたいという制作意欲が随所からわき出ているようにも感じられるからだ。

本来はドラマの1シーズンに匹敵する情報量を詰め込んで1本の映画にしているのか、もしくは頭の中のグラフィックノベルを映画化しているのか。
そう考えると、エンディングがグラフィックノベル風になっているのも納得がいく。

いつか長尺のドラマシリーズを任せてみてほしいと思わせるプラシャーントだが、すでに今年の9月には、「バーフバリ」シリーズのプラバースを主演にむかえた最新作『サラール』がインドほか世界で公開される。

実は日本でも時期は未定だが公開予定となっており、その予習として今作が緊急公開されたとすれば納得がいく。

他にも『RRR』のNTRジュニア主演最新作や保留状態の「K.G.F」の続編となる「Chapter 3」も企画されているなど、今後プラシャーント・ニールという名は、インド映画を観ていくにあたって、必ず目にするようになるはずだ。

【ストーリー】
CHAPTER 1
1951年、スーリヤワルダンはコーラーラ近郊で金鉱(KGF)を発見し、採金ビジネスに乗り出す。全てを一族で管理して巨万の富を築くいっぽうで、労働者は外部から遮断された環境で奴隷のように働かされ、苦しい生活を強いられていた。同じ年にスラム街でひとりの少年が生まれる。少年は唯一の身内であった母を10歳のときに亡くし、生き残るためにマフィアの下で働き始める。ロッキーと名乗った少年は、マフィアの世界でのし上がっていく。やがて最強のマフィアとして恐れられるようになったロッキーは、ボスからKGFの実質的な支配者であるスーリヤワルダンの息子を暗殺するよう指令を受けるのだが…。

CHAPTER 2
KGFを支配下に置いたロッキーは、新たな金鉱を発見し事業を拡大していく。しかし敵対勢力も黙ってはいなかった。
スーリヤワルダンの弟で、死んだと思われていたアディーラが現れ、KGF奪還を目指し勢力を束ねていく。そしてロッキーの唯一の弱点である恋人リナをさらい人質とする。リナ救出に向かったロッキーは、アディーラに撃たれ瀕死の重傷を負う。そしてアディーラは金輸出を妨害してKGFを孤立させ、ロッキーの同盟者をせん滅していく。最大の敵に窮地に追い込まれたロッキー…果たして彼はKGFを守り、生き残ることができるのか!?

【クレジット】
出演:ヤシュ、シュリーニディ・シェッティ、ラヴィーナー・タンダン、アナント・ナーグ(CHAPTER 1)、サンジャイ・ダット(CHAPTER 2)
監督・脚本:プラシャーント・ニール 
撮影:ブヴァン・ゴウダ 
音楽:ラヴィ・バスルール
『K.G.F: CHAPTER 1』2018年/154分/G
『K.G.F: CHAPTER 2』2022年/166分/G
インド/カンナダ語/シネスコ/5.1ch/字幕翻訳:藤井美佳
字幕監修:池亀彩/配給:ツイン

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