「限界突破!アドベンチャードラマ始動!」という謳い文句で、TBS系「日曜劇場」にて放送中の『VIVANT』。堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司ら豪華キャストを揃え、2か月半にわたるモンゴルロケを敢行したというスケールのデカさも話題の、今クール最注目ドラマだ。


【写真】堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司ら豪華キャスト陣

主人公・乃木憂助(堺雅人)が勤務する丸菱商事で、1億ドルが誤送金される事故から物語は始まる。彼が送金ボタンを押していたことから、故意の犯行であると疑われてしまい、その解決のために単身バルカ共和国へ渡航。調査の末に、事件の裏にテロリストの暗躍があったことを突き止める。

ところが、面会を果たしたテロリストのアル=ザイールは「お前がVIVANTか?」という言葉を残して爆弾自決。爆破事件の重要参考人として追われる立場となった乃木は、警視庁公安部の野崎守(阿部寛)、WHIの医師・柚木薫(二階堂ふみ)と共に、命からがら日本へ脱出する。

そして、サイバー犯罪対策課の東条翔太(濱田岳)の協力のもと、誤送金事故は別の人物による策謀であったことが明らかになる…というのが、放送された第3話までのあらすじ。その予測不能な破格の展開に、SNS界隈でも盛り上がりを見せている。

7月16日に放送された第1話から、その“破格さ”はスパークしていた。冒頭から乃木が広大な砂漠のど真ん中でウロウロしているし(どこか『スター・ウォーズ』の惑星タトゥイーンを思い起こさせる)、テロリストが爆弾自決するし、山羊の大群が大暴走する。ストーリーというよりは「画」の力で視聴者をねじ伏せてしまう、剛腕ぶりが発揮されているのである。

本作は、『半沢直樹』、『下町ロケット』、『陸王』で演出を務めた福澤克雄によるオリジナル・ストーリー。福澤作品は、「倍返しだ!」でお馴染みの高血圧演出が特徴的だが、そこに圧倒的な「画力」が加わることで、その高血圧ぶりがさらに増している。


役者たちのアクの強い演技も見所の一つ。堺雅人は終始オドオドしている気弱キャラと、冷静沈着な強気キャラの二重人格というヤバい設定だし、阿部寛はいつもの傲岸不遜なアベちゃんだ。そこに一本芯が通ったキャラの二階堂ふみが加わることで、実力派3人によるアンサンブルが生まれている。

乃木を執拗に追い回すバルカ警察のチンギスは、漫画の『蒼天航路』に出てきそうな強面キャラでナイス・キャスティングだし、野崎の協力者ドラムは、その巨体と愛くるしい風貌、そして翻訳アプリの声のアンバランスさがクセになる。『VIVANT』の人物造形は、いい意味で漫画的なのだ。

正直言って、ストーリーもユルい。誤送金事故にはテロリストが関わっている、という事実を乃木はサムというCIA局員から仕入れる。他国に機密情報を勝手に渡してしまう、れっきとした背任罪だ。だがサムは“乃木は学生時代の友達”という理由だけで、あっさりと背任行為に手を染めてしまうのである。

第3話のクライマックスは、丸菱商事の特別ルームにあるサーバーに直接アクセスして、バックアップデータを回収するという展開だったが、少しでもITに詳しい者なら「今どきクラウドサーバーじゃなくて、オンプレミスの物理サーバーかよ…」とツッコミを入れてしまったことだろう。

漫画的リアリティ、ツッコミどころのあるユルさ。普通に考えたらマイナス・ポイントでしかないのだが、福澤克雄の高血圧演出と掛け合わせられることで、不思議とチャーミングな手触りになっている。
鑑賞者もそれを許容し、それを楽しんでしまう共犯関係が築き上げられているのだ。

出演がアナウンスされているものの、まだ出番のない松坂桃李はいつ登場するのか。第1話の最後にちょこっとだけ出演した役所広司は、どのような姿で戻ってくるのか。そして日本の安全を影で守っているという「別班」とは、いかなる組織なのか。筆者も『VIVANT』に夢中である。第4話の放送を期待して待とう。

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