【写真】初のエッセイ本を出版したインパルスの板倉俊之
これまで5冊の小説作品を発表してきた板倉俊之。エッセイや自伝を中心とした芸人本ブームのなか、2009年に初著書『トリガー』を執筆した経緯について、このように振り返る。
「出版社から『本を出しませんか』というオファーがあったんですけど、あの時期はとにかくパンチ力がありすぎる人生を送ってきた人が一斉に本を出していたじゃないですか(笑)。中学のとき段ボールを食ってたっという人の自伝の後に、俺の人生について書いてどうなるんだよって思っちゃったんですよ。
なので、『エッセイや自伝を書く代わりに、普段生活していてイラっとくるような人たちを片っ端から銃で撃ちまくっていく、みたいな話が頭の中にあったので、それをフィクションで書いてみよう』と考えたんです。そこで話を膨らませていったら、『あ、これ面白くなりそうだな』と感じられてきた……というのが、小説を書くようになったきっかけですね」
そんな彼が小説家デビューから14年を数える今年、初エッセイを発表しようと思い立った理由は、自らの中に芽生えた“好奇心”だったという。
「小説を書く上で、笑いをメインテーマにしたことはなかったんです。僕は普段、芸人としてお笑いのことを考えながら生きているなかで、お笑いにはできないけどストーリーとして面白そうだっていうものを、小説でやってきていて。興奮させたり、泣かせたり、 驚かせたりするための装置として小説を書く、という価値観ですね。
でも、芸人をやりながら小説もコンスタントに書いているうちに『自分は文章で笑いを生み出せるんだろうか』と思い始めてきた。芸人として、エピソードトークを話しっぱなしで終わっちゃってるのも、なんだかもったいないなという気持ちもありました。完全に自分のためだけの空間でじっくりと笑える話をしたらどうなるだろう、ということに興味が出てきたんです。
板倉にとって新たな試みとなった『屋上とライフル』には、彼が送る日常の些細な出来事が縦横無尽に綴られている。多岐にわたるトピックが取り上げられる本作を執筆する上で、彼にとっての軸になったのも、やはり“笑い”だった。
「自分が書きたい話を書いたというよりは、オチがあってかつ、ちゃんと文章で読者を笑わせられるかどうかでそれぞれのテーマを決めました。自分のこれまでを振り返ってみて、『そういえば、あれ面白かったなあ』って思うエピソードを選んだだけなんですけどね。
本当になんでもない日常が中心になっているのも、『人のためになる本』というより、『人を笑わせる本』を書きたい、という思いが原動力になっているからだと思います」
小学生時代の夏休みの宿題にまつわるエピソードで始まる本作には、子供の頃に経験した出来事やそれを通じて抱いた感情などが多く著されていることも特徴的だ。
「書いてみてわかったんですが、子供のときってすごいアホなことやってるし、物事を新鮮に捉える年頃ということもあって、そこに面白いエピソードが集中しているんですよね。
当時感じたことを言語化できていたかというと違うと思いますけど、小説を何度も書いてきたことで、だんだんとそのやり方も見えてきましたし。あと、家族や友人と集まると『あの頃、お前こんなこと言ってたよな』って、何回も同じ話をされるじゃないですか(笑)。そうやって反復しながら、新たに感じたこともありましたね」
身の回りのあらゆることを一つひとつ拾い上げ、様々な角度から見つめて本質を追求する板倉の観察眼は、芸人/コント師としてはもちろんのこと、小説家、そしてエッセイストとしても発揮される。
「生きているなかで何か引っかかったことがあれば、それを人が笑うレベルにまで膨らませられるか考える、というのは日常的にやっています。それはただの事実ではなく感想というか、ある意味“日常についての論文”みたいなものなのかもしれないですね」
インタビューの最後には、初エッセイを出版後に改めて抱いたという、文章を通じた表現ならではの新鮮な感情について語ってくれた。
「お客さんの前でやるお笑いと違って、本は受け手が笑ってる瞬間を実際に目撃できないのが、もどかしい気持ちになりますね。
【後編はこちら】インパルス板倉“趣味人”としての顔「ハイエース旅は冒険の記録を動画で残している感覚」