【写真】デビューに40億円かけた伝説のアイドルグループ
たとえば今どき歌って踊れるアイドルは星の数ほど存在するものの、歌って“戦える”コンビは、彼女たちをおいて他にはいないかもしれない。それは今から40年以上も前、女子プロレス界に水星の如く現れたタッグチーム、ジャッキー佐藤氏とマキ上田からなる「ビューティ・ペア」だ。
あくまで女子プロレス界のアイドル的存在という立ち位置ではあるが、彼女たちの人気はまさに正統派アイドルさながらだった。1976年に結成するや否や、世界タッグ王座を獲得。同年に『かけめぐる青春』でレコードデビューを果たし、試合前のリング上で歌う斬新なスタイルが人気を博した。
なお同楽曲のCD売り上げは、プロレスラーとしては異例となる80万枚を記録。これは1975年11月にリリースされたイルカのヒット曲『なごり雪』に匹敵するほどの売り上げである。
女子プロレスというと、どちらかといえば男性客に支持されているイメージもあるが、ビューティ・ペアの活躍ぶりは女子高生を中心に爆発的な人気を呼んだ。当時は彼女たちに憧れるティーンが会場に詰め寄り、試合前に「かけめぐる青春」が流れると「踏まれても(ジャッキー!)」「汚れても(マキー!)」と熱烈なコールまで起きたという。
実際、YouTube上に公開されているライブ映像などを見てみると、当時の熱気がどれほど凄まじいものだったのか分かるだろう。終始会場には黄色い声援が飛び交っており、宝塚歌劇団のスターに近い存在のようにも見えてくる。
1977年には初主演映画となる『ビューティ・ペア 真赤な青春』が公開され、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いを見せていたが、残念ながらその活動はわずか3年で終わりを迎える。引退になったきっかけは、ジャッキー氏の恋愛関係だったそうで、1979年に日本武道館で行われた2人の直接対決を最後に、ビューティ・ペアは解散した。
“尖った”昭和アイドルを語るうえで、1984年にデビューした伝説のアイドルグループ「セイントフォー」の存在は欠かせないだろう。彼女たちは岩間沙織、浜田範子(濱田のり子)、鈴木幸恵、板谷祐三子からなる4人組グループで、各メンバーがイメージカラーのレオタードに身を包み、歌の合間にバク宙や側転などを披露する体育会系アイドルだった。
そして何より驚くべき点は、デビューのために用意されたというプロモーション費にある。2018年にKeyHolder社が「SKE48」事業を30億円で買収し、界隈をザワつかせていたことがあったが、「セイントフォー」はそれをはるかに上回る“40億円デビュー”という派手なキャッチフレーズで業界の注目を集めていたのだ。
およそ2年にわたるハードなトレーニングに耐え、満を持してデビューを果たした際には、映画のシーンと現実のデビューをシンクロさせた本格ダンス映画『ザ・オーディション』が公開へ。その完成を記念してフォード・レーザーからは「セイントフォー」をイメージして創り上げた特別仕様車まで発売されたという。
そのほか、CDのリリースやCM制作なども含めた結果、デビューにかかったプロモーション費が40億円に及んだ……ということらしい。
ただ、それだけの資金を費やしたのにもかかわらず、「セイントフォー」は契約上のトラブルに巻き込まれ、わずか2年ちょっとで解散に追い込まれてしまう。2018年には再始動を果たし、2021年8月からコロナ禍の影響で活動休止しているが、再び彼女たちの活躍が見られることを期待したい。
ここまで「ビューティ・ペア」「セイントフォー」と昭和の尖ったアイドルを紹介してきたが、1982年にデビューした3人組ユニット「スターボー」の尖りかたが尋常ではない。
奇抜なコスチュームや女性らしさを消したテクノカット、男言葉を交えた歌詞など、尖った要素を挙げたらキリがないが、なかでもひと際異彩を放っているのがデビュー当時の宇宙人設定だ。
彼女たちは太陽系第10惑星「スターボー」から脱出した年齢・性別不詳の宇宙三銃士で、悪い地球人にさらわれた母親を探すためにやってきた……という、小倉優子の「こりん星」が霞むほどの独特すぎる内容だった。
ところが1983年発売の2ndシングル『たんぽぽ畑でつかまえて』からは、宇宙人設定がしれっとなくなり、ふりふりの衣装に身を包んだ正統派アイドルグループに転向。なんでも悪い地球人がいなくなり、さらわれた母親も無事だったため、正体を明かし本当の自分たちに戻った……とのことで、今もなお「スターボー」は人類には早すぎた宇宙アイドルとして語り草となっている。
いつの時代も数多くのアイドルが存在するからこそ、差別化を図るために異色の存在が生まれるのかもしれない。令和の世にも、数十年後まで名前が残り続けるような尖ったアイドルが誕生することを期待したい。
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