井上 『月刊エンタメ』はアイドルカルチャーマガジンです。政界きってのアイドル通の石破さんは、今の「会いに行けるアイドル文化」についてどう思われていますか?
石破 売れていない時代に一生懸命応援すること。それがアイドル好きの真価だと思っているので、今のファンの人たちにもシンパシーを感じます。やっぱり売れちゃうとつまらないからね。
井上 でも、もともとは売れて欲しいと思って応援するんですよね?
石破 それはそうですね。
井上 でも、売れちゃうとちょっとさみしい……みたいなことですか?
石破 そうだね。どこへいっちゃったんだろうな、あの子ってね(笑)。
井上 複雑な心理が(笑)。もし、70年代、80年代のアイドルが今のように会いに行ける存在だったら、握手会とか参加していましたか?
石破 会いに行かなかったと思うね。アイドルってその名の通り、偶像みたいなとこがあると思っているんですよ。だから本当を知っちゃうと偶像が崩れてしまう気がしてね。遠くにいて会えないからこそアイドル、だと思うけどね、私は。
井上 南沙織さん? ごめんなさい……、分からないです。
石破 何? そもそも知らない! 恐ろしいことだ……。ま、とにかく当時の私は、好きになったアイドルの歌は全曲歌えるよう一生懸命覚えていたわけです。でも、コンサートにはほとんど行ったことなかった。
井上 それはチケットが取れないからですか?
石破 いや、やっぱり本物を観ちゃうとダメなんだと思って(笑)。だから、……ブロマイドは知っている?
井上 分かります!
石破 良かった(笑)。ブロマイドを定期入れに入れて、そっと見る。それが私にとってのアイドルとの距離感。伝わるかな。
井上 今だったらスマホの待受にするみたいな感じでしょうか?
石破 そんな感じ……なのかな。うん(笑)。
井上 あと石破さんは、カレーがすごくお好きだとも聞きました。
石破 我々、昭和30年代後半生まれの人間にとって、カレーはすごいごちそうで、完全にハレの日の食べ物だったからね。いつ好きになったかと考える間もなく、カレーを食べることが人生の喜びみたいな感覚があるんですよ(笑)。私が大学を出たのが昭和54年、銀行員を経て国会議員になったのが昭和61年。大学時代の4年間はほとんどカレーを食べ続けていたしね。昭和はカレーとともにありました。
井上 ご自分でも作られることはあるんですか?
石破 作りますよ。それなりのこだわりがあって、ご飯は硬めに炊いて必ずサフランを入れる。ルーにはインドから買ってきたスパイスを加え、玉ねぎはあめ色になるまで炒め、野菜や鶏肉も入れる前にきちんとソテーをして、味付けをする。日本にこれしかないというカレーを作って、人に食べて喜んでもらうのが趣味ですね。
井上 学生時代から自炊はしていたんですか?
石破 この話はあちこちでしていますが、今から17年前に小泉(純一郎)内閣で初めて大臣になったんですよ。防衛庁長官。
井上 そうなんですか!
石破 当時、私は自分が大臣になると思ってなかったんですよ。小泉先生とはいろいろあったから(笑)。まさか私をお使いになるとは思わなかった。だから全然、心の準備ができていたかったんですね。もちろん、防衛の仕事はずっと手掛けてきていましたが、SPさんが付く暮らしを想像したことがなかったわけです。
井上 でも、入閣したことがどうして自炊につながるんですか?
石破 防衛庁長官は基本的にあっちこっち行けないんです。何かあったとき、すぐに防衛庁に帰ってこなければいけないから。だから、夜に議員宿舎に戻ってから晩御飯を食べるとなっても、外に出るにはまたSPさん呼ばなきゃいけない。公務なら仕方ないけど、日曜日なんかは申し訳ないじゃないですか。それでこれは自炊するしかないと思って、いろんな料理本を買ってきた。カレーはもちろん、和洋中、それぞれ一生懸命覚えて、土日の空いた時間に秘書官やSPさん、自衛隊の制服組の人たちなんかを議員宿舎に呼んでごちそうしたり(笑)。
井上 やさしいですね。
石破 みんな大臣が作っているから「まずいです」とは言えないじゃない? 「おいしいですね」と喜んでくれるから、うれしくなってまた作る、と(笑)。あのタイミングで防衛庁長官になっていなかったら、料理はしていなかったかもしれないね。
(26日正午12時公開の後編に続く)
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。現在は『アッコにおまかせ』(TBS)などバラエティ番組を中心に活躍。
Twitter:@bling2sakura
▽石破茂(いしば・しげる)
1957年2月4日生まれ、鳥取県出身。自民党所属衆議院議員。慶應義塾大学法学部卒。旧防衛庁長官、防衛大臣、国務大臣地方創生・国家戦略特別区担当、自民党幹事長などを歴任。