【別カット】『燕は戻ってこない』、キャスト陣の細やかな演技に感嘆
まず『燕は戻ってこない』をドラマ化した背景について「とにかく原作が面白くて登場人物が魅力的。生殖医療という今日的なテーマを扱っていることにも惹かれ、『これはドラマ化したい』と思いました」と答え、具体的な理由を話し始める。
「原作を読んでいると『人の命って何なんだろう?』『お金を払えば代理出産を利用しても良いのか?』など、白黒ハッキリ決めることが難しい問いかけを矢継ぎ早にされている感覚になりました。昨今、何かにつけて善悪を簡単に判断する風潮が根強く、恐怖感や不安感を覚えていました。本作を通して簡単に判別できない問いに、向き合っていくための姿勢を示したかったことも大きいです」
また、板垣氏は本作を制作するうえで“代理出産=悪”と解釈されないように特段気を配っていると説明。
「不妊治療をしている友達は結構いるのですが、話を聞くと切羽詰まるほどに苦しんでいます。『代理出産という選択肢があれば利用したかった』と考える瞬間があるかもしれません。代理出産を利用すること、代理母に応募することなど登場人物のあらゆる選択をただ単に否定的に捉えられないように、『みんなにはみんなの事情がある』『すごく悩んだ末にその選択をした』といったことが伝わるように気を付けています」
本作と言えば、リキと日高(戸次重幸)の性行為シーンやリキが女性向け風俗のサービスを受けるシーンなど大胆なシーンが目立つ。コンプライアンスが厳しい時代ではあるが、過激な表現を放送することに葛藤はなかったのか聞くと、「原作に描かれている重要なシーンなので、映像化したいと思いました」という。
「生殖をめぐる作品ですので、セックスとはどうしても切り離すことはできません。セックスシーンはインティマシー・コーディネーターの方からいろいろ助言をもらいながら、できる範囲内で細心の注意を払いながら表現しました」
キャスト陣の繊細な演技もストーリーを重厚にしている。
「リキは夢もお金も自信もないところからスタートしますが、もがきながらも前に突き進もうとする役です。石橋さんは心に芯があるというか、ロック魂がある役者と考えており、『彼女のその強さに賭けたい』という思いからオファーしました」
次に自分自身の遺伝子を残すことに強いこだわりを持つ基役の稲垣吾郎を起用した経緯として、「基は女性から反感を集めかねない役ですので、『基は不快』『もう見ない』となってしまうと困ります。ですので、『嫌悪感を覚えてもどこか憎めない』と思わせるチャーミングさを持つ役者でなければいけない。加えて、バレエ界のサラブレットです。上品な美しさも兼ね備えた役者に演じてほしいと思った時に稲垣さんの顔が浮かびました」という。
「稲垣さんと話した際に、『僕は基とは違う人間だけど、僕もひょっとしたら無意識のうちに女性を傷つけているかもしれない』『基の考えていることで理解できる部分もあるので、そういうところを丁寧に演じていきたい』と口にしていました。誠実に基という役と向き合っていただいているので、本当に引き受けてくれて良かったと思った瞬間でした」
また、リキに何かとケチをつける平岡(酒向芳)は、登場回数が少ないながらも強烈な印象を残した。酒向を起用した理由として「演出担当の田中健二が『平岡は酒向さんしか考えられない』と最初から言っていたのでお願いしました」と説明。
「田中には『平岡にはどうしてもヘルメットを被せたい』という強いこだわりがありました。私としては『ヘルメットを被せたくらいで何が変わるの?』と正直半信半疑だったのですが、映像を見た時にその理由に気付きました。“自転車に乗る際はヘルメットを被る”という交通ルールをしっかり守っているにもかかわらず、リキには陰湿かつ強気に接していることが対比となっており、平岡の怖さがより引き立っていました。

最後にどのように本作を楽しんでほしいのかと聞いたところ「ただただ楽しく視聴してもらえればと思います。ただ、話数が進んでいく中で、何か気付きを感じ取ってもらえると嬉しいです」と語った。
クライマックスに向かってどんどん不穏な空気が色濃くなっている『燕は戻ってこない』。どのような結末を迎えるのか不安でもありながらも同時に楽しみでもある。
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