2018年7月に乃木坂46を卒業して以降、モデルとしてファッション誌やファッションショーに出演しながら、『ウルトラマン DARKNESS HEELS~THE LIVE~』や『MONSTER LIVE!』で着実に舞台経験を積んできた相楽伊織。
初主演作となる『かげぜん』は2010年に東池袋あうるすぽっとで初演が開幕。終戦間際の時代を描き、戦争のむなしさ、人としての意地や優しさ、血縁だけではない人と人との繋がりなど、現在でも色あせることのない、人の想いを紡いだ骨太な作品だ。相楽伊織に初主演舞台に挑む気持ち、そしてグループ卒業後の生活について聞いた。
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──お久しぶりです! もうすぐ舞台が始まるんですよね。
相楽 『かげぜん』という舞台なんですけど、戦時中のお話です。でも、内容的には人情物語で、詐欺師が潜り込んだ老婦人と暮らしているうちに結婚話が持ち上がって、「家族」の大切さを知る──というお話です。私は青森から上京した女の子役で、詐欺師に騙されています(笑)。津軽弁で話すのが大変です。先生がセリフを全部吹き込んでくださったものを聴きながら覚えました。
──標準語とは全然違いますよね。
相楽 濁音が多いです。自分のことは「わ」って言います。
──演出家の方は優しいですか? 怖いですか?
相楽 それが全然怖くないんです。優しくて面白い方で。映画監督もされていて、見た目は怖そうだったから、初めは大丈夫かなと思ったんです。でも、冗談をまじえて稽古が進んでいったので、安心しました。
──相手役の上遠野太洸さんの印象は?
相楽 すごく勘のいい方です。求められているものを一瞬で理解して、お芝居に反映できるのがすごいです。セリフの量も多いのに、初めから台本を持たずに稽古していたのもすごいなって。私は台本を持たないと不安だったのに。とりあえず長ゼリフがなくて、よかったです(笑)。
──舞台って1カ月くらいかけて稽古をするから、共演者の方とコミュニケーションを取らないといけないものですよね。つまり、コミュ力が問われと思うのですが、そのあたりはいかがですか?
相楽 私はそんなに人見知りでもないので、自分から話しかけられます。ただ、自分が最年少だから、何かあったら助けてください!というスタンスで臨んでいるから、皆さんに身を任せています。
──去年の12月にも舞台に出演しましたよね。
相楽 はい。9月に上演した『DARKNESS HEELS~THE LIVE~』リニューアル版だったので、12月のときは落ち着いてできました。
──舞台そのものの魅力に気づいてきましたか?
相楽 そもそもお芝居ってどうすればいいんだろうと思っていて、苦手意識があったんです。でも、乃木坂46を卒業してからいろいろな人とお話してみて、何人かに「お芝居向いてると思うよ」と言ってもらって。そうなのかなと、なんとなく思うようになりました。その気持ちをマネージャーさんに伝えたら、舞台を見に行くことになって。『ぼくのタネ』という舞台だったんですけど、ものすごく感動したんです。舞台ってここまで観る人の心に響くものなんだと思ったのがきっかけで、自分でもやってみたいと思いました。いざやってみると、同じ場面を何度も稽古するじゃないですか。自分なりに役を探っていくのが面白いなと思って。自分の中から出てくるものを表現する作業が楽しいです。
──乃木坂46卒業後はどんな毎日になりましたか?
相楽 グループとしてのお仕事がなくなったという以外に、それほど変化はありません。ファッションショーとかファッション誌の撮影とかお芝居とか、それぞれの楽しさが見つかりました。
──乃木坂46時代って、目まぐるしかったと思うんです。一日を吟味する時間がないというか。
相楽 テレビをつけたら、「あれ、もう土曜日だ! もう一週間たったの?」みたいなことはよくありました。今はゆったりとした充実した日々を過ごしています。気がつけばただ時間が経ってしまっているということはなくなりました。
──大きく変わった点はありますか?
相楽 以前はすっぴんで外出できませんでした。マスクや帽子をして、下を向いて歩いていました。友達と歩く時も周りの目が気になっていたんですけど、今では気にならなくなりました。近所ならすっぴんで歩けます。
──他に変わった点はありますか?
相楽 メンタルな部分です。
──なぜ相談しなかったんでしょうね。
相楽 同じ環境にいると、同じことで悩んでいるものなんです。それを相談したところで、答えは出ないんだろうなと思っていました。自分のことでも悩むし、周りのことでも落ち込むし。「今日はあの子、元気ないな」と感じると、自分のことよりそっちが気になってしまったり。今は自分ひとりだから、自分にだけ向き合えばいいんです。
──グループの中にいると、どうしても比較されてしまいますよね。
相楽 たしかに、以前よりは気にしなくなりました。今はインスタグラムでしかつながっていないので、私のことを好きでいてくださる方の温かいコメントに包まれています(笑)。
──アイドルって卒業がつきものですよね。その後、生まれ変わらなくてはなりません。卒業ってどんなものだと考えていますか?
相楽 リセットだと思います。16歳から活動を始めて、いろいろな経験をさせていただいて、すごく恵まれた環境にいて楽しかったんですけど、自分のこれからを考えた時、分岐点を20歳にしたかったというのが大きくて。それで卒業を決意しました。乃木坂46はグループとして大きく成長しているけど、その中にいる自分は成長できていないと感じたんです。立ち位置的にもそうだし、人間的な成長もしていないなって。そのためにはリセットが必要だなと思いました。
──卒業を決意して、メンバーに報告しましたか?
相楽 はい。北野日奈子、伊藤純奈、川後陽菜、伊藤かりんちゃんには先に報告しました。
──2期生としては久しぶりの卒業でした。同期から言われたことはありましたか?
相楽 「年齢的にまだ早いんじゃない?」と言われました。でも、引き留められることはなかったです。みんなが「自分が決めたことなら」と送り出してくれました。ファンの方は、私が卒業するとは予想していなかったと思います。なんとなくですけど、1期生さんから順番に卒業していくものという流れがあったけど、その流れとは関係なく卒業してもいいかなと思いました。
──卒業後、グループのことは気になりますか?
相楽 はい。夏の神宮球場は観に行きました。あと、卒業後すぐの札幌のアンダーライブにも行きました。自分が出ていないライブを観るのは新鮮でした。ステ―ジからはこう見えているんだろうなと想像しながら楽しみました。初めは不思議な感覚でしたけど。一番思ったのは、モニターに映るメンバーがみんなかわいいなということでした(笑)。
──在籍中に学んだことって何だと思いますか?
相楽 「考えること」です。私は中学でも高校でも勉強が苦手でした。親に甘えてどうにか生きてきたんですけど、グループに入ってから驚いたのは、同年代のメンバーが自分で考えて行動しているということでした。仕事に対する熱意もあるし、考え方がしっかりしている。そんな姿を見て、私は焦りました。入って1~2年で、このままじゃいけないと気がつきました。自分と向き合わないといけないんだって。このお仕事は、ちゃんと考えている人が結果を出すと思うんです。卒業後に生かせていることがあるとしたら、それだと思います。
──今後やりたいことはありますか?
相楽 今、舞台のお仕事が本当に楽しいと思えているので、今後もやり続けたいです。次は映画とか映像にも挑戦してみたいですね。いつかファッション関係でもっと輝いてみたいという夢もありますけど、今は舞台で頭がいっぱい……という感じです。
▽相楽伊織
さがら・いおり。1997年11月26日生まれ、埼玉県出身。2018年7月に乃木坂46を卒業。卒業後は「TOKYO GIRLS COLLECTION」などでモデルとして活動する一方、舞台『DARKNESS HEELS~THE LIVE~』などで女優としても活躍している。

▽オフィス・REN プロデュース『かげぜん』
1月22日(水)~26日(日)東京・紀伊國屋ホール
1月29日(水)兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
▽公演公式サイト
http://www.o-ren.com/kagezen/index.html