【写真】映画版の大宮セブン、とタモンズの撮り下ろしカット
──『くすぶりの狂騒曲』公開が迫ってきました。自分たちのことが映画になると最初に聞いたとき、どのように感じましたか?
安部 単純にびっくりしましたよね。大宮セブンの2代目支配人が、この映画のプロデューサーをやっているんです。その方から「映画を作るのが夢だった。ぜひ大宮セブンをテーマにして撮りたい」と聞いたときは「正気かよ?」って(笑)。
大波 さらに言われたのは、「マヂカルラブリーとかすゑひろがりずを主人公にしてしまうと、単なるサクセスストーリーになってしまう」と。
──それじゃダメなんですか?
安部 ダメらしいんです。そうじゃなくて、芸人たちが必死であがく姿を描きたいということだったんですよね。
大波 まぁたしかに現実の世界を見渡したら、ドリームを掴める人なんてほんの一握り。ほとんどはいろんなことを諦めながら生きているわけじゃないですか。そういう人たちに対して応援歌的なメッセージを伝えたいので、タモンズ主演でいきたい。
安部 とはいうものの、吉本が作る映画だからビデオレター的なゆるい内容だと僕らは高を括っていたんです。ところが完成した作品を観たら、「うわっ、これ本気の映画やぞ!」とビビりまして。
大波 だったら、もっとちゃんと最初にオファーしてほしかったよな。雑談の延長線上で「映画やりたいねん」とか言われたから、こっちも深いこと考えずに「あざす!」とか返事してしまった(笑)。
──今回の『くすぶりの狂騒曲』は原作があるわけではないですよね。となると、脚本執筆にあたって綿密な取材も行ったということになりますか。
大波 ヒアリング作業は相当やりましたね。吉本の東京本社に広い中庭があるんですけど、そこに僕らと監督さんと脚本家の方の4人で座りながら過去のことを話すんです。
安部 結局、僕らは東京の本流から外された人間じゃないですか。だから、「“お前ら、明日から大宮に行け”って島流しにあったときは、どう感じた?」とか監督さんからも細かく聞かれましたね。
──作品自体はお笑い要素もあるものの、シリアスなトーンが目立ちました。
大波 そもそも最初に映画化の話が出たときは、“本人たちが本人を演じる”というプランだったんです。でも、それは断ったんですよね。「演技なんて無理です」って。仕上がった完成版を観て、「あぁ、やっぱりプロの役者さんにお願いして正解だったわ」ってしみじみ思いました。
安部 映画だから、ときには感動的な場面も出てくるわけです。お笑いを諦めきれない僕たち2人が、道路を挟みながら漫才して、最後は感極まりながら歩道橋を登っていく……とか。あんなの自分たちで演じようと思っても、恥ずかしくてできないですよ。仮に僕らがやっていたら、めちゃくちゃチープな仕上がりになっていたでしょうね。
──自分のことを他人が演じるのって、当人としてはどう感じるものなんですか?
安部 まず駒木根隆介さんという方をよく見つけてきたなというのが率直な気持ちでした。いや、もちろん駒木根さん自身はすでにいろんなところでご活躍されている方なんですけど、誰かが「タモンズの安部役は駒木根さんでいこう」と決めたわけじゃないですか。その発想がすごいなって。実際、僕が見ても僕にそっくりなんですよ。驚きましたね。実際にお会いして、お話させてもらったときもシンパシーをすごく感じましたし。要は一緒にお酒を飲みたくなるタイプなんです。
大波 それを言ったら、僕も和田正人さんを見て「あぁ、俺やな」って感じましたけどね。
安部 ホンマか? 「美化されすぎじゃないの?」って話題になっているらしいで。
大波 いやいや! 内面も含め、大波康平を演じることができるのは和田正人さんしかいないでしょう。そこは全幅の信頼を寄せていました。
安部 素材が最初から全然違うんやから! 魚肉ソーセージと黒毛和牛くらい別物や!
──まぁまぁ(笑)。
安部 そこは本当にその通りなんですよ。単なるモノマネ大会ではなく、2人の関係性とか空気感も忠実に再現してくれていて。漫才の稽古中、(大波役の)和田さんが(安部役の)駒木根さんに「ここはもっとこうしたほうがええんちゃうか」とか話しかける場面は、僕らからしても「そうそう、そんな感じのやりとりよくあるわ~」って頷くくらいでした。
ヘアメイク:松本英子
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