【写真】今の面影がある?空手を習っていた小学時代、写真で振り返る井上咲の半生
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<眉毛が運んでくれるチャンス、深まる悩み>
自分ではまさか、眉毛がウケると思っていなかった。
ホリプロスカウトキャラバンで注目を浴びたし、中学生の時から散々イジられていたけど、「東京にはこんな眉毛の人はいっぱいいる」と思い込んでいたのだ。
だから、「眉毛の子」と珍しがられて、テレビ番組に出るチャンスが続いた時も「え!? 私の眉毛って、そんなに?」と半信半疑。これが武器になるなんて想像もしていなかったし、予想外だった。
高3の頃、『アウト×デラックス』(フジテレビ)や『アッコにおまかせ!』(TBSテレビ)『バラいろダンディ』(TOKYO MX)など、バラエティ番組に続けて呼ばれたことがあった。まさに、眉毛きっかけでのテレビ出演だったけど、トーク力がまったく追いつかない状態だった。
だから1回は呼ばれるけど、2回目の声はかからない。期待して呼んでくれたスタッフさんと収録後に顔を合わせるのが申し訳なくて、裏口からこっそり帰ったこともある。テレビの現場の大人の人たちは面と向かって「良くなかった」とは言わない。ただ呼ばれなくなるだけだ。
テレビに出られるのはうれしい。だけど、毎回うまくいかないから苦しい。
失敗体験が積み重なるし、マネージャーさんからは死ぬほど怒られるし、楽しくない。
私の感覚では、高校時代はもちろん、21歳くらいまではチャンスをもらっても、波に乗れないまま足踏みしている感覚だった。
眉毛のインパクトで、井上咲楽を認知してもらうスピードは速かったけど、実力が足りない。見た目のインパクト以上の何かを残せない。自分の実力不足に焦りを感じて、答えの出ない武器探しが始まっていった。
< 眉毛>井上咲楽……誰にもわからない眉毛へのコンプレックス>
街を歩いていると私を見かけた人が「なんだっけ、あの子。眉毛が太い」と言うやりとりが聴こえてくる。
井上咲楽という名前よりも、眉毛で先に世の中に知ってもらえたわけだ。
ダンスも歌もできない、面白いことも言えない。
自分が実際にテレビ番組に出ている回数に比べて、いろんな人から「観ているよ」と言われる回数のギャップが大きすぎて、次第に世の中をだましている気持ちにもなっていた。
人の印象に残るのはタレントとしてすごくラッキーでありがたい話だ。
ただ、「眉毛>井上咲楽」という状況になっていることに対して、私は自分の眉毛にコンプレックスを抱くようになっていた。太い眉毛が嫌だったのではなく、眉毛に付属する井上咲楽みたいな関係性をどうにかしたかったのだ。
そこに「眉毛を剃りませんか?」という話があった。
仕事に停滞感を覚え、自分の眉毛にモヤモヤしているくらいなら、剃ることで何か変わるんじゃないか? そう思った。
ゲジゲジ眉毛を剃って変身したという話題があることで、例えば1ヶ月、2ヶ月の期間限定であったとしても仕事がめちゃくちゃ増えるなら、賭けてみたい。もしその後、バーンと出演依頼がなくなったとしても、一瞬でも移動中しか寝る時間がないみたいな忙しさを味わってみたい。
そうなる可能性があるなら、剃ってみよう。
私はそんなふうに脳内会議を繰り広げていた。
<眉毛という個性がなくなっただけになってしまうかも?>
実は、眉毛を剃ってから『今夜くらべてみました』がオンエアされるまでにはしばらく間があった。
当日、スタジオで流すビフォアアフターの密着取材で、初めてプロのメイクさんに眉毛を剃り整えてもらった。でも直後に鏡を見た時の正直な感想は、「変わったかな?」だった。
以前、ネットでの書き込みに「井上咲楽、眉毛を剃ったらもっといい感じになりそう」というのを見て、眉毛を手で隠して鏡を見たり、写真を撮ったりしては「別に、そうでもないじゃん」と思った時と同じ。実際に剃ってみても大きく変わった感じはしなかった。
もしかすると、眉毛という個性がなくなってしまっただけになるかも……と不安になりながら、オンエアの日を待っていた。
<ゲジゲジ眉毛とさよならしたら、仕事が一気に舞い込んだ>
オンエア後、ありがたいことに一気に仕事が増えた。
仕事を取るための武器を見つけよう、増やそうとしてきたのに、眉毛を減らしたら、やったことのない依頼が次々舞い込んでくる。美容雑誌、ファッション雑誌、グラビア撮影、ドラマ出演、バラエティ番組での恋愛企画……。とにかく「仕事って、こんなにいろいろ種類があるんだ!」とびっくりした。デビューからそれまでの数年間は、「どこに仕事があるんだろう?」と悩んでいたから、余計にだ。
現場の行き帰り、マネージャーさんと「世の中にはこんなにいろんなジャンルの仕事があるんだね」と話していた。
特に衝撃が大きかったのは、美容雑誌やファッション雑誌の写真撮影だった。
大きなスタジオにヘアメイクさん、スタイリストさん、カメラマンさん、それぞれのアシスタントさん、編集者さん、ライターさんが揃い、とにかくみんながやさしく褒め称えてくれるのだ。
シャッターが1回切られるたびに、カメラマンさんが「今の表情、いいですね」と言ってくれるし、髪の毛がちょっとでも乱れたらヘアメイクさんがささっと寄ってきて直してくれるし、衣装の襟元が少しずれたらスタイリストさんが直しに入って整えてくれる。
私が1人でやったら「この髪型はボサボサ……?」というスタイルでも、プロのみなさんが完成系をきっちりイメージして仕上げたもの。スタジオにはいい匂いのミストがただよっていて、撮影の邪魔にならないくらいの音量でカッコイイ音楽が流れている。
上がりの写真を見ると、見たことないくらいアーティスティックな自分が写っていた。
なんだ、この違いは! と驚いたものだ。