現在放送中の連続テレビ小説『おむすび』(総合・月曜~土曜8時ほか)。1月27日(月)~31日(金)放送の第17週「Restart」では、ナベさん(緒形直人)が東京に引っ越すことを決めたり、ガーリーズの営業継続が決まったりと、週タイトル通りそれぞれがリスタートする姿が描かれた。
今回はそんな第17週を振り返りながら、印象的だった4つのセリフを振り返ってみたい。

【写真】刺さる名台詞が多数登場した『おむすび』第17週【5点】

第82回、娘の声を忘れ始めていると涙するナベさんを見てしまった歩は、自身も真紀ちゃんを忘れてきていると吐露。辛い出来事が起こると「忘れられたら楽なのに」と思ってしまうのに、いざ忘れかけている自分に気付くと罪悪感がある…そんな経験がある人も多いのではないだろうか。

そんな歩に愛子(麻生久美子)は、「忘れるってそんなに悪いことじゃないと思うけど。だって、その分自分が前に進めてるってことでしょ?」と伝える。さらに「思い出せるときに思い出せばいいと、お母さんは思うな」と付け加えた。

大切な人を失ったり辛い出来事に直面したとき、最初は誰しも心の底から悲しんでその人の存在やその瞬間が頭から離れなくなる。そして時が経って苦しみや悲しみ、寂しさは、記憶から離れると同時に自分の養分となって背中を押してくれるのだと思う。愛子もきっと別れや悲しい出来事を養分にしてきここまで生きてきたのだろう。そう感じさせる落ち着きのある声と真っ直ぐな視線は、歩だけではなく視聴者の心も柔らかくほぐしてくれた。

続いて第83回、米田家に居候していたひみこ(池畑慎之介)がガーリーズを訪れ「邪馬台国って知ってる?」と投げかけたシーン。閉店セールの売れ行きが思わしくなく、ルーリー(みりちゃむ)が「若い子が集まるところにチラシ置いてもらおうと思って」と言うと、ひみこは突然「邪馬台国がどこにあるかは諸説ある」と話し始めた。
そして「何でみんな決めつけたがんのかなぁ。邪馬台国はどこやとか、男はどうやとか、女はどうやとか、年寄りとか若者とか。もうどうでもええやんな。みんな自由やねんから」と続けたのだ。

ガーリーズのターゲット客は若い女性だったのだが、この言葉を聞いてピンときた歩は商店街の面々を次々にギャル化させてSNSにアップする。結(橋本環奈)や菜摘(田畑志真)といった若い女性だけではなく、愛子や美佐江(キムラ緑子)、ついには太極軒の夫婦までギャル化させると、ガーリーズには男女問わずたくさんのお客の姿が。さらには日本全国から注文が殺到する事態になった。

年齢や性別、住んでいる場所を問わず自由にファッション、そして人生を楽しんでよいのだというメッセージは、まさに性別という概念を超えて活躍する池畑慎之介からにじみ出てきているものだろう。ここでは昨今よく聞く“多様性”というワードは一切使われていない。だが「これこそが多様性だ」と感じた視聴者も多かったのではないだろうか。ひみこが「若い女性以外もターゲットにしたら?」と直接的にアドバイスせず歩自身に気づかせたことで、見ている側に“考える隙”を与えてくれたのも視聴者思いなセリフだったなと感じる。

ひみこは第85回、米田家を後にすると「アユ、人生は一瞬やで。
やりたいこと今すぐやっとかんと、死ぬときに後悔するで」と歩を抱きしめる。さらに同回、ナベさんも歩に「真紀は真紀。あんたはあんたや。あんたはあんたの、人生を歩め」と“人生”についての言葉を投げかけた。

やりたいことを見失ったり、この道は正解なのかと苦しんだり、過去の出来事を忘れられなかったり、忘れてしまう罪悪感に悩んだり…この二週間ずっと表情を曇らせていた歩は、きっと自分の人生について考えていたのだろう。歩は長い間真紀ちゃんの分も背負いながら人生を歩み、「真紀ちゃんのため」ひいては「ナベさんのために何かしなければ」という気持ちも持ち続けていたのかもしれない。

たった一度切り、それも一瞬で終わってしまう人生。誰かのためではなく自分のために進んでいけば、回りまわって誰かの役にたったり誰かに届いたりするものだ。歩も今ようやく、自分を軸にした“やりたい”を見つけ始めつつある。

『おむすび』で発せられるセリフたちは、登場人物と全く同じ境遇ではない私たち視聴者にも届くものがある。SNSでも「自分に言われた気がした」「今の自分にも当てはまる」など、セリフが“刺さった”という声を見かけることも多い。それはきっと、作り手が人々の日常や感情のゆらぎを丁寧に観察し連ねたセリフだからだろう。
キャスティングや現実世界とのリンク、細やかな間や声のトーンにも作り手の並々ならぬこだわりを感じる。

そんな『おむすび』からどんなことを感じ、どんなメッセージを受け取れるかは我々視聴者次第だ。残り約2ヶ月、これからどんな名セリフが生まれるのか期待したい。

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