現在放送中の連続テレビ小説『おむすび』(総合・月曜~土曜8時ほか)。2月10日(月)~14日(金)放送の第19週「母親って何なん?」では、ヒロイン・結(橋本環奈)が自身の未熟さに気づき「思いあがっとったんやと思う。
まだまだなのに」と涙を浮かべた。

【写真】ヒロインの“短所”を臆せず描いた『おむすび』第19週

これまで、持ち前のギャルマインドでコミュニケーション能力を発揮していた結。最初は結のグイグイっぷりに嫌悪感を示していたサッチン(山本舞香)や、星河電器時代の上司・立川(三宅弘城)も、最終的には一緒にプリクラを撮るほど仲を深めた。そのコミュニケーション能力はNSTメンバーにも認められ、患者ともどんどん距離を縮めていく姿が印象的だった。

NSTで好調なスタートを切っていたからこそ、第95回で担当患者・八重子の腫瘍に気づけなかったことは大きなショックだっただろう。結は医師ではないため腫瘍そのものに気づくのは無理があるが、八重子の体調に異変はなかったか、味の好みに変化はなかったかなど、慎重にコミュニケーションを取っていれば何か手がかりになることがあったかもしれない。

医療現場は“ギャルマインド”だけで突き進むのは不可能な場所だ。年齢、性別、病状、さまざまな患者がいる中で「うち、ギャルなんで!」と我が道を行く結には正直ヒヤリとする場面も多々あった。自身の母親よりも上の世代であろう八重子にタメ口で話しかけ、“八重ちゃん”と呼ぶコミュニケーションは、いくら小百合(藤原紀香)イズムをリスペクトしていたとしても、なかなかチャレンジングだなと感じていた。

しかし、そんな結にヒヤッとさせられるのはこれが初めてではない。金髪&バッチリメイクで登校した専門学校初日、「彼氏のために栄養士を目指す」宣言、間違った知識で翔也のために献立表を作ってしまう…など、思い返してみれば結は一貫してやや見切り発車で視野が狭い一面があるのだ。学生時代はそれでも何とかなってきたものの、就職、ましてや医療現場で働くなると正確さや傾聴力、観察力が必要だ。
患者の心を開く丁寧なコミュニケーションはもちろんのこと、どんなに小さな違和感も見逃してはならない。しばしば視聴者から指摘されているように、そこは結の弱点であることは確かだろう。

一方で、結のコミュニケーション能力が時と場合によって長所にも短所にもなる描かれ方は、とても誠実だなと感じている。自分の長所を活かして患者の心を開けたという結の喜びを成功体験として終わらせず、時には短所にもなり得るとチクリとさせる描写は、見ているこちらも心改めるきっかけになった。

朝ドラヒロインを清廉潔白な人物や人並み外れた才能を持つ人物ではなく、長所も短所も併せ持つ未熟な人物として描くのは、リアリティが生まれる分難しい。視聴者がほぼ毎日目にするヒロインの短所が表面化すると、作品への批判につながりやすくなるからだ。それでも『おむすび』は結に対して、「ここは好きだけど、ここには共感できないな」と視聴者に感じさせる微妙な位置づけを徹底しているように思う。

それは実際に起きた震災を扱う物語であるからこそ、登場人物の人間性にも一定のリアリティを求めているという部分もあるだろう。「ギャルになる!」「栄養士になる!」「結婚する!」と唐突に思える結の人生設計も、よくよく友人に話を聞いてみるとサイコロを振って出た目の通りに人生を進めているような子もザラにいるのである。逆に、幼少期から一つの夢を追い求める翔也(佐野勇斗)タイプの人生の方がレアケースだろう。

そんなどこにでもいそうな“普通の女の子”を、“1000年に1人の逸材”と呼ばれるほど現実離れしたビジュアルを持つ橋本環奈が演じているところも含めて、朝ドラ『おむすび』の面白さなのだと思う。

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