【別カット】尾野真千子がもう一度会いたかった小林薫と出演するドラマ『憶えのない殺人』
──小林薫さんと尾野真千子さんの共演というと、多くの人がNHKの連続テレビ小説『カーネーション』(2011年放送)を連想すると思います。
尾野 今回、『憶えのない殺人』というドラマをやろうと思ったのも実は小林薫さんがいたからなんです。もう一度、この人とちゃんと面と向かって芝居をしたいとずっと思っていたので。今回はお互いにあのときよりも年を重ねていましたし、なにかいろいろ感慨深かったですね。
──ドラマ『憶えのない殺人』ですが、撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
尾野 楽しかったですよ。基本、一緒に撮影する共演者の人とはずっとしゃべっていました。「こんなしゃべりすぎちゃって大丈夫?」ってくらいに。本番前は楽しくしたいから、ついついおしゃべりしちゃうんですよ。今回は取り調べみたいな深刻なシーンも多いから、そういうところはちゃんと真面目にやったつもりです。
──役者さんによっては、シリアスな場面を撮る前の段階から役に入り込むケースもありますよね。それこそ、おいそれと話しかけられないピリピリした雰囲気を出して。
尾野 私はどちらかというと、本番スタートしてから気持ちを切り替えるタイプかな。撮る前から緊張状態でいると、その集中力が長続きしないんですよ。なんだか疲れちゃって。たまにテストとか事前の段取りをしているときに入り込んじゃうときがあるんですけど、それをしちゃうと、ホント頭がおかしくなってくるんですよ。
──そこまで入り込んじゃうものですか!
尾野 自分でも異常だと思いますよ。泣かなくていい芝居のときに、なんだかいろいろ降りてきちゃって、唐突に泣き始めたりとか……。なんかねぇ、大変なお仕事だなって思うことがありますよ。今回のドラマでも1回だけ全然泣かなくていいところですっごく悲しくなっちゃって、テストで泣いちゃいましたし。そういう自分がいるってこと自体、自分でもビックリするんですけど。
──それはどのシーンですか?
尾野 一緒に仕事している若手刑事・稲岡(松澤匠)に「早く証拠集めなさいよッ!」って怒鳴る場面。
──あぁ、ありましたね。
尾野 たしかに重い場面ではあるんだけど、なにも泣きながら言う必要はないじゃないですか。それもテスト段階で(苦笑)。なんていうのかな……いろいろ考えちゃうんですよ、背景を。今回のドラマでいうと、(主人公で犯人と疑われる)佐治の人生とか。考えなくてもいいことが頭の中でぐるぐる渦巻いていく。それで泣いちゃう。自分でもそんなふうにはなりたくないんですよ。
──それもあって、先ほど尾野さんが言っていたように現場では極力明るく過ごすようにしているのでしょうか?
尾野 そういうことでしょうね。感情が溢れすぎちゃうと、芝居ができなくなるんですよ。芝居には余計な感情なので。入り込みすぎると、いらないことまでしてしまう。
──改めて大変な職業だと思います。さて、そんな役者業を尾野さんが始めたのは中学3年生のとき。ひょんなことから河瀬直美監督にスカウトされ、映画『萌の朱雀』でデビューしました。現在の尾野さんは“本格派”“演技派”と見なされることが多いですが、どのあたりでプロとして意識が芽生えたのでしょうか?
尾野 プロ意識か……。今でも持っていないかもしれないな。大体、プロってどういうことなんだろう? 少なくとも私は芝居のプロではないでしょうね。それ仕事にしているのはたしかだけど……う~ん、おかしな人ですよ。
──これだけいろんな作品で活躍しているのに?
尾野 「活躍している」というのは見ている人が判断することであって、当事者としてはまったくそんなふうに思えないんですよね。いや、だって私たち役者って監督が必要だし、プロデューサーも必要だし、芝居させてもらう場所が必要じゃないですか。たぶん1人でなんでもできる人が本当のプロだと思うんですよ。
──なるほど。
尾野 それでいうと、私は1人じゃ何もできない。つまり、プロではないんですよ。じゃあ、何者なのか? なんでここにいるのか? それは単に長くやっているということだけでしょうね。この仕事が楽しいから続けているだけ。それは“教えてもらうことが楽しい”ということも含めての話ですが。それでなにか作品を作り上げたとき、とてつもない楽しさになるから続けているだけであって……あまりその意味は考えたこともないんですよね。
おの・まちこ◎1981年11月4日、奈良県出身。中学3年生のとき、映画監督・河瀬直美の目に留まり『萌の朱雀』(97)のヒロインとしてデビュー。同作でシンガポール国際映画祭主演女優賞を受賞する。以降、多くの映画やドラマに出演。河瀬監督と再タッグを組んで主演を務めた『殯の森』(07)はカンヌ映画祭のグランプリに輝いた。
特集ドラマ「憶えのない殺人」
2月22日(土)【NHK BS】夜9時放送
<あらすじ> 東京郊外の駐在所勤務だった佐治英雄(小林薫)は十年前に退職し、今も同じ町内に暮らしていた。ある日、北嶺亜弓(尾野真千子)という刑事が近所で起きた殺人事件の聞き込みに佐治を訪ねて来る。その事件の被害者は、かつて若い女性へのストーカー行為で佐治が逮捕した男だった。彼は服役後、今度はその女性を襲ってケガを負わせてしまった。佐治は自分がもっと注意していればと、そのことを今も深く後悔していた。 事件捜査を進める北嶺は、佐治が犯人であると思わせる物証に行き当たり、実直そうな彼が犯人ではないかと疑いを深めていく。自分が殺人犯だと疑われていることに気づいた佐治は、元警官の誇りにかけて無実を証明しようとするが、その一方で自分が犯人ではないかと疑い始める。なぜなら彼は認知症を患っているからだ。自分の無実を信じたい佐治と冷静に事件を追う北嶺の二人は、いつしか彼の心の迷宮に足を踏み入れていくことになる。
《 出 演 》 小林 薫 尾野真千子 橋本じゅん 松澤匠 鞘師里保 西村和泉 阿南敦子 佐藤誓 岡本篤 室井響 畦田ひとみ 村崎真彩 山形匠 横田真子 中越典子 螢 雪次朗 筒井真理子
《 作 》 大森美香
《 音 楽 》 河野 伸
【後編はこちら】今も“夢は女優になること”尾野真千子、厳しい親が認めてくれた役者も「全然まだまだ」