【写真】登美子はなぜ嵩を置いて去ったのか?『あんぱん』第2週【5点】
夫・清(二宮和也)と死別した登美子は、嵩と共に御免与町に住む義兄・寛(竹野内豊)のもとを訪ねる。第1回では「親子でお世話になります」と挨拶しており、当初はもちろん嵩と一緒に暮らすつもりだったのだろう。だが、都会的で利発な登美子は、御免与町ではどこか浮いた存在だった。しばしば人々の噂の的になっていたこともあり、決して居心地のよい町ではなかったはずだ。
義姉にあたる千代子(戸田菜穂)ともどこか噛み合わない様子。フォークとナイフを使って食事をする“ハイカラ”な暮らしぶりに「西洋かぶれね」とチクリと皮肉を飛ばし、嵩を置いて家を出るときも寛にしか報告しない。千代子のことを好いていないのは誰が見ても明らかだった。
第3回では、嵩が描いた“家族4人”の絵を見た登美子が「でももう前を向かなきゃね……」と呟く場面がある。「前を向く」とは、すなわち清を忘れて新たな人生を歩む……つまり、再婚するという決意だったのだろうか。嵩には「すぐに帰るから」と言いつつ、置き手紙に「再婚をする」と記して登美子は御免与町を去ってしまった。
町を去るまでの言動を見る限り、登美子は嵩や千尋を大切に思っていないわけではないはずだ。
東京での華やかな暮らしから一変、「夫に先立たれた気の毒な女性」として見知らぬ土地で暮らすことは、登美子にとって耐えがたいものだったのかもしれない。だが、嵩のことを完全に手放すこともできず、中途半端な手紙と嘘で息子をつなぎとめた。傷つけると分かっていても、そうするしかなかったというのが正直なところだろうか。
だが登美子の再婚に関しては、いくつか腑に落ちない点がある。一つ目は「再婚にしては時期が早すぎないか?」ということだ。第3回で千代子が「まだ一周忌も迎えていないのに」と発言しており、夫・清の死から1年も経っていないことが分かる。
葬儀を終えて東京の家を整理し、嵩と御免与町に移り住むまでの間に、新たな男性と関係を築く余裕があったとは考えにくい。しかも、その相手の男性は高知在住。東京にいたころから付き合いがあったとは思えず、やはり急すぎる印象だ。
二つ目は、再婚相手と思われる男性に対し、嵩のことを「親戚の子」と偽っていた点だ。初婚を装っているのか、それとも子どもはいないと嘘をついているのか……いずれにせよ、事実を隠していることは確かだ。
男性は千尋と同じ年ごろの女の子を連れており、その子は登美子を「お母さま」と呼んでいた。男性の連れ子と見るのが自然だが、それならばなぜ登美子も自分の子どもの存在を話せなかったのか。何か深い事情が隠れているに違いない。
三つ目は、オープニングクレジットの変化だ。第1週では「柳井登美子(松嶋菜々子)」と表示されていたが、第2週・第9回では「登美子(松嶋菜々子)」に変わっている。これは、再婚によって名字が変わり「柳井」ではなくなったことを示唆しているのか、それとも“どこにも居場所がない”ことを示しているのか。第3週からも注目しておきたいポイントである。
再婚の真偽はどうであれ、少年・嵩の心は深く傷ついてしまった。手渡されたお金を払いのけ、母の姿を描いた絵を破り捨てた嵩の心情を思うと、胸が張り裂けそうになる。
第3週からはいよいよ今田美桜と北村匠海が本格的に登場する。悲しい経験をした嵩が、どう「裏切らない正義」と向き合っていくのか、今後の展開が楽しみだ。
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