春ドラマが出揃った今、ひときわ目を引くのは、小泉今日子(59)と松下由樹(56)というアラカン世代の女優たちが主演を務める2作品『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)と『ディアマイベイビー 私があなたを支配するまで』(テレビ東京系)の存在だ。日本のドラマ界では主演といえば30~40代が主流だが、そんな常識を打ち破るように、昭和・平成・令和をまたぐ名女優たちが再び脚光を浴びている。
中年世代の共感を呼び、今春の注目を集める2本の作品について、ドラマオタクのコラムニスト・小林久乃が斬る。

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春ドラマがスタートしてほぼ1ヶ月。ドラマオタクらしく、全局の作品を見渡すと「ん?」と引っかかるトピックがあった。小泉今日子(59)と松下由樹(56)がそれぞれドラマに主演しているのだ。二人とも世間で言うところの“アラカン”で、50代後半。日本ではドラマ主演とあれば、30~40代の俳優が中心にキャスティングされる傾向が高い昨今、これは稀な事象だ。

まずは小泉今日子と中井貴一が主演する『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)を思い浮かべて欲しい。テレビ局に勤務する吉野千明(小泉)が鎌倉に住み、隣家の長倉家と出会い、定年退職を間近に控えた日々をドラマ化している。第1シリーズが13年前に始まり、誰も欠けることなく全員無事で出演しているのも奇跡。加えて、出演者のほとんどがアラフィフ、アラカン世代で埋まっているのは、もう功績。

年配の俳優が出演する作品といえば、2017年放送の『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)という老人ホーム舞台にしたドラマを思い出す。老人特有の強欲ぶりが前面に出ていて、全く安らぎのない作品で、むしろ刺激的だった。
ただ『続・続・最後から二番目の恋』は第1シリーズと比較すると、全体的に物語も登場人物も和らいだ印象がある。仕事が始まった月曜21時に観るドラマとしては、ちょうどいい温度感だ。

シリーズの再開には今か、今かと待ち焦がれていたファンも多い。私もそのひとりだ。待っているうちに視聴者たちも年齢を重ねて、作品に共感する中高年世代から支持を受けている。

松下由樹が主演する『ディアマイベイビー 私があなたを支配するまで』(テレビ東京系)は、件の作品とは全く毛色の違う、ドロッドロのサスペンス。芸能事務所のベテランマネジャー・吉川恵子(松下)は、偶然出会った青年の森山拓人(野村康太)を一流の俳優にするべく、熱を注ぐ。が、その熱は次第に狂気へと変貌、束縛がエスカレートしていく物語。

とにかく松下演じる吉川恵子が怖い。拓人に寄りつく人物は手荒な手段で次々に排除、攻撃。手段は選ばず、拓人のためなら同じ事務所に所属する俳優も美人局を使っておとしめる、スタイリストもスタッフィングから外す。その様子は観ているとむしろ爽快ささえ感じてしまう。
それもそのはず、松下由樹といえばかつては『想い出にかわるまで』(T B S系・1990年)などで、姉の婚約者を寝取るといったキッツイ女の役を演じていた経歴がある。その他『週末婚』(TBS系・1999年)など姉妹バトルを描いたドラマ……といえば、松下由樹の存在は欠かせなかった。今回の作品における迫力は、そんじょそこらの俳優が簡単に表現できるものではない。

ではなぜ、昭和、平成、令和と3元号を演じ抜くふたりの俳優の主演作が世間を騒がせているのか。理由はひとつ、視聴者がふたりと同じく、おじさんとおばさんだから。昭和生まれ、平成青春育ち世代はテレビ文化が全てだった。毎週放送のドラマを楽しみにして、ドラマから流行を吸収して生活していた世代だ。

ただ思い返して欲しい。昨今の日本のドラマの主演は冒頭にも記述した通り、30~40代の俳優が中心。もっといえば女優の作品主演キャスティング率は、国外の作品と比較すると極端に少ない。50~60代の主演作は……私の記憶を反芻しても、ほぼない。そうなると、中高年世代の共感を得るドラマは減り、視聴する気持ちも削がれる。
そんなところに二大アラカン女優が春ドラマに君臨となれば、注目度は俄然上がる。日本の年齢別人口で約1,835万人もいると、言われる50~59歳が作品の味方となるのだから、これは強い。

同じく中年層への視聴アプローチとして2021年に『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(N H K総合)も「こういうのが観たかった~」と、面白かった記憶がある。今後も今回ピックアアップした2作品に続いて欲しいと願わんばかり。

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