【画像】女性が生きる困難さを容赦なく描く『ガール・ウィズ・ニードル』【6点】
〇ストーリー
第一次世界大戦後のコペンハーゲン。お針子として働くカロリーネは、アパートの家賃が支払えずに困窮していた。やがて勤め先の工場長と恋に落ちるも、身分違いの関係は実らず、彼女は捨てられた挙句に失業してしまう。すでに妊娠していた彼女は、もぐりの養子縁組斡旋所を経営し、望まれない子どもたちの里親探しを支援する女性ダウマと出会う。他に頼れる場所がないカロリーネは乳母の役割を引き受け、二人の間には強い絆が生まれていくが、やがて彼女は知らず知らずのうちに入り込んでしまった悪夢のような真実に直面することになる。
〇おすすめポイント
第97回アカデミー賞において外国語長編映画賞にノミネートされたことも記憶に新しい作品ではあるが、モノクロの映像(モノクロじゃないと直視できない)で描かれる時代と環境、そして戦争が作り出した悪夢のおとぎ話。
今作の核部分を説明するとネタバレになってしまうし、何も情報を入れないで観ることこそが醍醐味のような作品であるため、説明が難しいのだが、ざっくり言うと、戦争被害の尻拭いをさせられるのは、常に女性であるということを描いている。連続殺人自体をサイコスリラー的に描いているというよりは、そうするしかなくなってしまった環境を描いているといえる。
実は冒頭から、今作が何を描こうとしているかのヒントがある。
戦争で戦っているは、戦地に行った兵隊だけではない。残された者が極限の状況下で生き抜いていくことも戦い。生きているのか、死んでいるのかもわからない夫を待ち続けるという美談は、映画やドラマでもよく描かれるが、女性の所得が極端に低かった時代では現実的ではない。
そして今作に登場する男性陣は、誰もが役に立たない。優しく声をかけてくれたり、一時的に手を差し伸べてくれたりもするが、現実的な話をすると逃げてしまう。そもそも戦争を起こしているのも男性が主体であり、そこには残された女性や子どもたちへの配慮など全く無い。だからこそ戦争などという愚かなことが起きてしまうわけだが……。
他人のことなど気にしていられず、自分自身生きていくことが困難極まりない時代と環境なかで、女性ひとりで子どもを育てることが、いかに難しいことなのか。それを軽視した世間への、今の時代にも通じるアンチテーゼともいえる強烈な作品なのだ。
〇作品情報
監督・脚本:マグヌス・フォン・ホーン
出演:ヴィク・カーメン・ソネ、トリーネ・デュアホルム、ベシーア・セシーリほか
2024年/デンマーク、ポーランド、スウェーデン/デンマーク語/123分/ 1.44:1/モノクロ/5.1ch/PG‐12/原題:Pigen med nålen/英題:The Girl with the Needle/日本語字幕:吉川美奈子/字幕監修:村井誠人
配給:トランスフォーマー
5月16日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイト シネクイントほか全国公開