【写真】“苛立ち”の裏にあるのは恋心?『あんぱん』第7週【5点】
第32回では、メイコ(原菜乃華)と健太郎(高橋文哉)のはからいで、のぶと嵩は一度仲直り。しかしその後、戦争に対する価値観の違いから再び衝突してしまった。のぶは「しゃんしゃん東京にいね」と嵩に告げ、嵩はその言葉通り、のぶに別れを告げることなく東京へ戻ってしまう。
「しゃんしゃん東京にいね」というセリフは、第1回以来の再登場だ。小学生だったのぶは、東京から御免与町に引っ越してきた嵩に対して「おまんみたいなヘナチョコ、見よれんちや」「しゃんしゃん東京にいねっ!」と突き放したのだ。
ところが、嵩が父親を亡くして御免与町にやってきたこと、そして東京には戻る家がないことを知ったのぶは、「酷いことを言ってしまった」と激しく後悔。後日「こないだのあれは取り消す。しゃんしゃん東京にいなんでえい」と謝ると、嵩は「朝田のぶさん。君は乱暴なところもあるけど、優しい人なんですね」と応じたのだった。
「しゃんしゃん東京にいね」という言葉が、嵩を傷つけるものだと、のぶは分かっていたはずだ。それなのになぜ、また同じ言葉を口にしてしまったのか。
これまで数々の“意気地ない嵩”の姿を見てきたからこそ、今回のプレゼントは、嵩が相当な勇気を振り絞って贈ったものだと想像できる。「のぶちゃんが認めてくれたから今の自分がいる」という言葉にも、のぶに対する深い感謝の気持ちと恋心がにじみ出ていた。
一方で最近ののぶは、どこか混乱状態にあるように見える。相変わらず嵩からの好意には全く気づいていないが、自分の中にある“これまでとは違う”嵩への感情に、少しずつ気づきはじめているのかもしれない。
「銀座には綺麗な女性がたくさんいる」と書かれていた手紙を読んだあの時から、のぶの中には小さなジェラシーが芽生えていたのではないだろうか。プレゼントをもらって嬉しい反面、美しいものに囲まれて暮らす嵩との差を感じたり、自分はこんなにも悩んでいるのに、何にも悩んでいなさそうな嵩に苛立ったり……。のぶは、そんな矛盾する自分の気持ちに戸惑っているのだろう。
それでも「嵩は自分の元から離れないはずだ」と妙な自信を持っていたのに、今回ばかりは決定的な“別れ”になってしまった。偽名を使ってまで何通も手紙を送ってくれた嵩。のぶの両親が、遠い場所にいながらラブレターで心を通わせていたというエピソードを踏まえても、嵩からの手紙はただの近況報告ではなく、まぎれもないラブレターだったに違いない。
思い返せば、嵩も恋に目覚めたばかりの頃は、「急に暴れたくなってきた」と意味もなく千尋に戦いを挑んだり、ジェラシーに駆られて本来の自分を見失ったり、部屋でひとりジタバタと暴れたり、自分の感情をコントロールできていなかった。
まさに今ののぶもそんな状態なのだろう。心の距離が遠くなったと感じるのはなぜなのか。もう嵩に会えないかもしれないと思うと涙が出てしまのはなぜなのか。居ても立ってもいられず、駅まで駆け出してしまった原動力は一体どこからくるのか……。
のぶには今一度、自分の気持ちに素直になり、正面から嵩と向き合ってほしいと願わずにはいられない。
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