「赤ちゃん」漫才という前人未到、前代未聞のネタで、『M-1グランプリ2024』(ABCテレビ・テレビ朝日系)準々決勝で大きな話題を呼び、大晦日深夜から元日にかけて放送された『ぐるナイ年越しおもしろ荘! 今年も誰か売れて頂戴スペシャル』(日本テレビ系)で優勝に輝いた、タイタン所属のお笑いコンビ・ネコニスズ。現在はテレビにライブ、果ては連続ドラマに出演と、まさに飛ぶ鳥落とす勢いだ。
芸歴20年越え、「赤ちゃん」こと舘野忠臣は、この活況に戸惑いながらも芸人としての幸せな時間をしかと噛みしめている。いかにして「赤ちゃん」は生れたのか?その歴史と共に苦境の時代を舘野忠臣が振り返る(前後編の後編)。

【写真】おもしろ荘優勝でブレイクしたネコニスズ

──ネコニスズが結成13年、舘野さんの芸歴で言えば22年。大変失礼ながら、長い時間、思うような結果は出ませんでした。ここに至るまでに心折れるようなことはありました?

そうだなあ……色々、色々とありました。2010年、以前組んでいた「野球家族」というコンビで相方と一緒に上京しました。その時点ではどこの事務所にも所属していなかったので、色々な事務所を探す中、マセキ芸能さんを見に行ったとき、三四郎さんの漫才が面白すぎて。マセキに入りたいと思いオーディションを受け、なんとか預かりになれたんです。

入所して1年ほど経った頃かな、その時に見た三四郎の漫才がやっぱり面白すぎて。「これは勝てないや。頑張ってもここまで面白くなれないな」と心折れて、解散を決意したんです。それが東京に出てきて最初の大きな挫折でした。


その後、仲良くなったウエストランドの紹介でタイタンに所属になるのですが、そこからも全然売れない。しかも売れない芸人仲間として遊んでいた、小宮さん、井口くん、ともしげくんがどんどんテレビに出始めていくんです。特に、小宮さんがバン!と最初に売れたときは、もうテレビが見られなくなりました。

みんなすごく面白いんです。ただ、この面白さは、「僕らだけがわかっていることじゃないんだ。全員がわかる面白さなんだ」って。そこには嫉妬や悔しさがあったと思います。それに続いて井口くん、ともしげくんも売れていく。このメンバー全員が揃って遊ぶ機会も減り、僕だけが取り残されていって。どんどんテレビからは遠ざかっていきました。

2022年にウエストランドがM-1で優勝してからは、完全にマヒしていきました。「そうか、そうか。
わかりました~」って。僕だけが売れていない状態を受け入れたのか、諦めなのか、そんなわからない精神状態になっていましたね。

──そうした状況下で、何がモチベーションになっていました?

井口くん、小宮さん、ともしげくんが、どれだけ忙しくなっても、僕を飲みの席に誘ってくれて、その度に「舘野くんは大丈夫だよ」と励ましてもらえたのが支えでした。それに井口くん、小宮さん、ともしげくん、僕が面白いと思った人たちはみんな売れているんですよ。ということは、僕が面白いと思ってやっていることは、正解なんじゃないかな?って。驕りかもしれませんが、僕は「自分って面白くないのかな?」って思ったことないんです。何より、相方のヤマゲンは本当にツッコミが上手くて、ライブに出ればちゃんとウケるんです。本当の意味での不安や「もう辞めよう」と落ち込むことは、そこまではなかった気がするなあ。

──芸人になるべくしてなったメンタリティ、思考の持ち主ですね。

というより、他の仕事が多分できない気がしますね。本当にだらしない人間なので、芸人以外の仕事が向いていないんですよ。

──そうした中で「赤ちゃん」というキャラクターの誕生は、本当にネコニスズの人生を大きく変えました。


最初劇場で披露した時は「はあ?」という空気だったんですよ。反応も微妙で。けど、僕はマジでプロスピが好きで、しかもV.I.Pさんも好き。V.I.Pさんが「赤ちゃん」で笑ってくれたんだったら、別に劇場でウケなくてもいいやって思っていました(笑)。

あと、太田(光)さんの存在ですね。爆笑問題さんのYouTube(「テレビの話」)に出演したとき、「甘絵太郎」という赤ちゃんに似たぶりっ子のキャラクターを演じて。それを太田さんがすごく笑ってくださったんです。それが嬉しくて、劇場で反応が良くなくても、太田さんの笑顔を思い出しては、「太田さん笑っているから大丈夫」と糧にしていました。

『マルコポロリ』に最初に出させてもらったときも、東野(幸治)さんが僕の紹介VTRを見た時、「オモロ」とボソッと呟いたんです。それを僕は聞き逃しませんでした(笑)。その言葉ずっと頭の中で何度も反芻させて力にしていました。けど、ある回で東野さんにそのことについて聞いたら、「馬鹿にして笑ってただけやで」と言われて(笑)。
全然それでも嬉しかった。別に今ウケなくても僕が信じている人たちが笑っているなら、自分のやることを信じられるんですよね。

──それで信じ切った結果、今の活況があるわけですから、大正解ですよ。

いやあ、自分を信じて良かったですね(笑)。

──だからこそ舘野さんの中で、芸人として成し遂げたい夢は?

全然ないんですよ。強いて言うなら、芸人仲間と一緒にいたい。死ぬまで仲の良い芸人と一緒に楽しいことをしていたい。なので、4月の『マルコポロリ』で井口くんたちと一緒になれたときは嬉しすぎました。収録後に、また昔みたいにみんなで飲んで「本当に良かったね」って言い合って。本当に良い日でした。

──お笑いをずっと大好きな仲間たちと続けていくことが夢って、純粋ですね。

いやいや、向上心がないだけで(笑)。
けど、その楽しいを続けていくためには……やっぱM-1ですね。結果を残せばお笑いを仕事にできるし、決勝に行くとか優勝したら別の夢が出てくるような気がするんです。決勝に行けていない後ろめたさは強いですね。

──去年の準々決勝での敗退後、確実にもっと上に行けたという声が上がりましたからね。

その反応が嬉しかったですね。特に芸人仲間からの声がすごく多かったんですよ。芸人からの評価の声が一番嬉しい、正直審査員より芸人の目線の方が厳しいですからね。僕、芸人のことを信用しきっているんですよ。

──先ほどの太田さん、東野さんの話にも通じますが、なぜそこまで芸人を信じているのでしょう?

芸人って、純粋な気がするんです。素直に面白いもの面白いと言って、面白くないものには素直に面白くないって言う。取り繕わず自分の良い・悪いことを信じて、自分の面白いことを追求する姿勢は、すごく純粋だなって。

──なるほど……ある意味、その芸人の純粋さという点において、純粋な「赤ちゃん」に目を付けた舘野さんは、一番純粋な存在かもしれませんね。


純粋の際たるものですからね、赤ちゃんは(笑)。ただ、この「赤ちゃん」を面白がってくれる流れも、一過性だと思うんです。どうやって、これからもっと面白くなれるかは考えないとかなとは思いつつ……今はとりあえず赤ちゃんにしがみついていきたいなって、アハハ。

──この先も赤ちゃんとして、愛されっぱなしの日々が待っていますね。

ただ、最近一人だけ「髪の毛、切れ!」と、邪魔するようなことを言ってきた人はいます。ともしげです(笑)。

──舘野さんを潰す気満々(笑)。

ともしげくんと井口くんと3人で一緒にいたときに急に言われて。井口くん、メチャクチャ怒ってましたよ、「そんなの言うもんじゃないですよ!」って(笑)。

【前編はこちら】驚異の「赤ちゃん」キャラでブレイク、ネコニスズ・舘野「本当に“かわいい”と思ってくれる方が出始めた」
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