「赤ちゃん」漫才という前人未到、前代未聞のネタで、『M-1グランプリ2024』(ABCテレビ・テレビ朝日系)準々決勝で大きな話題を呼び、大晦日深夜から元日にかけて放送された『ぐるナイ年越しおもしろ荘! 今年も誰か売れて頂戴スペシャル』(日本テレビ系)で優勝に輝いた、タイタン所属のお笑いコンビ・ネコニスズ。現在はテレビにライブ、果ては連続ドラマに出演と、まさに飛ぶ鳥落とす勢いだ。
そんな快進撃の中心にいるのが、突如「赤ちゃん」と名乗り出た相方・舘野忠臣。過去にセンス系でたらした彼の変化を、ヤマゲンはどのように受け止めたのか。そして、芸歴19年にしてようやくスポットライトを浴び始めた現在、彼が見つめる芸人としての在り方とは──。その胸中を、ヤマゲンに語ってもらった(前後編の後編)。

【写真】おもしろ荘優勝でブレイクしたネコニスズ

──ヤマゲンさんは前グループ・ガスマスクガール時代も数えると、芸歴約19年。これまでを振り返っても今が一番ですか?

そうですね。手ごたえは今までの芸人人生の中でダントツですね。これまで長い時間、メッチャさぶ~い状況が続いてたので。もう、これまでのバイト人生は苦でしかなかったですねえ。ただ、舘野はきっと「全然苦じゃなかった」と言っていますよね?

──挫折はありつつ、そこまで不安はなかったとおっしゃっていました。

舘野は、お笑いができるだけで心が満たされるタイプなんです。僕はお笑い好きでありつつ、ちゃんと飯を食いたいという意識があるから、ソッコーでバイト辞めて、お笑いだけで飯食いたかった。
なんで、逆に野望のハードルは低い方ですよ、飯が食えればええかって。それ以上のことはあまり考えていませんね。

──舘野さんはドリーマー寄りで、ヤマゲンさんはリアリスト寄りですね。地に足が付いていると言いますか。

もしかしたら昔は大きな野望があったのかもしれません、冠番組持ちたいとか。それがこの10何年でなくなった(笑)。もしかしたら、結果も何も残していないのに、デカいことを言うのが恥ずかしいと思うようになっていったのかも。モチロンM-1優勝したいですけど、「行けたらいいなあ」ぐらいになっていましたね。

──中々芽が出ない中でも、ヤマゲンさんは『フリースタイルティーチャー』(テレビ朝日系)での優勝や、弟の山本環監督、俳優の山元駿さんとの映像クルー「FUTANOGO」で制作した短編映画『ブラック』が「京都国際映画祭」で最優秀賞を受賞されたりと、個人仕事で輝く機会がありました。その活躍を舘野さんはどのように見ていたのでしょうね?

多分アイツはイヤやったと思います。「嫉妬していた」と言われたこともありましたから。けど、僕としては自分の活動で少しでもネコニスズという名前が世に出ればいい、人に伝われば良いと思っていて活動していたので、嫉妬せんといてくれって思っていました。
俺はあくまで芸人で、ラッパーでも俳優でもないんやから、ええやんって。ちょっとギクシャクした時期はありました。

──そうした上手く歯車がかみ合わない日々、何が心の支えになっていました?

双子の弟たちの存在ですね。上京後も一緒に住んで、三人で芸能の世界にボンヤリと身を置きながら「頑張って売れような」というありきたりなキラキラした熱い話をしたりして、モチベーションを保っていましたね。

あとは同期や仲間の存在ですね。僕は見取り図が同期で、彼らが売れていく様を見てはモチベーションにしていましたし、東京に出てきてから仲良くしてくれたウエストランドがM-1で優勝したのもすごく嬉しくて。僕が面白いと思っているヤツが活躍している。そしてそいつは僕らを面白いと思ってくれている。なら俺らもいつかみんなの仲間入りできるはずだと、すごく勝手ながら考えていました。

それと、テレビが家になくて、みんなの活躍もXでしか知らない分、ダメージが少なかったんかも。活字でしか情報を得ていないんです。そのせいか、売れている人が全くわからないんです。
SixTONESさんとか、どう読むのか最近まで知らなくて。

──少し前に舘野さんと京本大我さんが似ているという話題が出た時も、話を合わせつつ「ん?」状態だったと。

正直申し訳ありませんが舘野から知りました、京本政樹さんの息子さんなんや!って。情弱も良い所ですよ、芸人こそアンテナ張らなアカンのに。この前も営業で、僕がノーズフルートという鼻で吹く楽器ができるんで、何か好きな曲を吹くからリクエストどうぞと聞いたら、小学生ぐらいの子から「(Mrs. GREEN APPLEの)『ライラック』やって!」と言われ、シンプルに「誰の何?」って返して、メッチャ笑われましたから。けど、何で笑われたのかサッパリわからない。完全に浦島太郎状態ですよ、メッチャ恥ずかしい。もっと色々な世界を自分の目で見なアカンと思っています。

──かなり無頼な生き方ですね。良い意味で時代と無理やりリンクしようとしない。

ホンマは無頼で生きていきたいんです。まあ、メッチャ人に頼りまくっているし嫁に助けられっぱなし。
説得力ゼロ。気持ちだけで飯食っていけたら、どれだけ楽か(笑)。しかも芸人ぽさが年々薄くなっているんですよ。子どもができてからは仕事行って直帰の生活なんで、全然芸人と飲みに行けてない。外に出なければいけない理由と、家におらないけない理由が同時に来たのが、メッチャ悩ましい。今こそ、たくさん色んな芸人と交流して、関係を深めなアカンちゃうの?って。幸せなことなんですけど、芸人としてはどうなん?って不安にもなるんです。(千鳥の)大悟さんのエピソードとかを聞くと、「スゲ~!それに比べて俺、全然芸人ぽくないな」と思っちゃいますね。けど、ちゃんと子育てもしたい。本当に贅沢な悩みですよ。

──家庭に軸を置く方が個人的に良い気がします。今はSNSでの揚げ足取りが盛んなので。


……そうですよね。積極的に「良いパパやっています!」アピールはせんとこうと思っています。何か出た時に、超特大のパワーボム食らって二度と立ち上がれなくなるのはイヤですから(笑)。ほどよく「赤ちゃんにツッコむ、イヤなヤツ」として、ほどよく嫌われていこうと思います。

──アハハ。嫌われ続けるのも大変だと思います。

いやいや、気楽なもんですよ。永遠に言い返し続けますから、「黙っとけ!」って(笑)。けど、そう言い続けるにはもう少し上に行かないととは思いますね。

──そうなると、やはりM-1での活躍が必須になってきますね。

ですね。優勝まで行かなくとも決勝に行けば「漫才師やっていいよ」という免罪符をもらえるような気がしているんです。
それに、出ている芸人がやっぱみんなカッコいい。出るだけでリスペクトできる。芸人からのリスペクトがある場所に行けるのが、一番良いこと。人気だけでは上に行けない、じゃあ笑わせるだけなら上に行けるのか? 上手ければ上に行けるか? そいうわけではない。中途半端を許さない、わかりやすく全てが揃った人しか到達できない場所なんですよ、M-1って。なんやかんや言いましたが、M-1に憧れちゃっているんです。

【前編はこちら】相方が急に「赤ちゃん」に…ネコニスズ・ヤマゲン「賭けでした。だってキモイじゃないですか」
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