アンパンマンを生み出したやなせたかしさんと、その妻・暢さんをモデルに、戦前から戦後の激動の時代を生き抜いた夫婦の姿を描くNHK連続テレビ小説『あんぱん』。放送100年、そして戦後80年という節目の年にこの作品を送り出すに至った経緯や、視聴者に伝えたい思い、そして映像、脚本、主題歌の随所に込められたこだわりについて、制作統括を務めるチーフ・プロデューサー、倉崎憲氏が語った。
(4回連載の1回目)

【写真】豪(細田佳央太)の戦死を知り、絶望する朝田家、ほか『あんぱん』場面カット【4点】

本作が放送される2025年は、日本でラジオ放送が始まってから100年、終戦から80年という節目の年でもある。倉崎氏は、企画の出発点に「戦後80年」というタイミングへの強い意識があったことを明かす。

「“放送100年”よりも、“戦後80年”の方が僕の中では大切でした。2025年に何を題材に朝ドラをやるべきなのかという観点から、実際に5年間戦地に行かれていた、やなせたかしさんの人生を描くことが大事なんじゃないかとずっと思っていました」

お腹を空かせた人に自らの顔を分け与える国民的ヒーロー、アンパンマン。この行動原理は、戦争で餓えの苦しみを思い知ったやなせさんの実体験と深く結びついている。著書『ぼくは戦争は大きらい』に代表されるように、やなせさんは戦争に対して強い拒否感と問題意識を持ち続けていた。

だからこそ倉崎氏は「やなせさんが経験した戦争をこのドラマでちゃんと描かないと、この『あんぱん』をやる意味はない」と断言する。朝のドラマで戦争を描くことに賛否もあるだろうが、その覚悟は揺るがない。

「『朝から戦争の話は見たくない』とか『暗い』とか、そういう声ももちろん上がると思いますが、それでもやらないといけない。“やるべきことだ”と思っています。それはチームとして、脚本の中園ミホさんを含め、演出陣を含め、1年以上前から覚悟を決めてやっていることです」

戦争の悲劇を描くことは、同時に「生きる喜び」を描くことにも繋がるという。倉崎氏は「喪失感があるからこそ喜びもあるんだという、当たり前の普遍的なものをちゃんと描きたかった」と語る。
そしてその根底にあるのが、やなせさんが問い続けた「逆転しない正義」だ。

軍国主義の崩壊により、やなせさんは“正義の逆転”に直面した。倉崎氏は「それぞれにとっての正義が逆転する瞬間を経験したのぶと嵩が『逆転しない正義とは何なのか?』を自問自答し続けていくところは、『あんぱん』をやるにあたって絶対に描かないといけないテーマでした」と力を込める。

【2】『あんぱん』RADWIMPS主題歌『賜物』に込められた想い「平等に与えられた命をどう生きていくか」はこちらから
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