アンパンマンを生み出したやなせたかしさんと、その妻・暢さんをモデルに、戦前から戦後の激動の時代を生き抜いた夫婦の姿を描くNHK連続テレビ小説『あんぱん』。放送100年、そして戦後80年という節目の年にこの作品を送り出すに至った経緯や、視聴者に伝えたい思い、そして映像、脚本、主題歌の随所に込められたこだわりについて、制作統括を務めるチーフ・プロデューサー、倉崎憲氏が語った。
(4回連載の2回目)

【写真】激動の時代を生き抜いた夫婦を描く、『あんぱん』場面カット【5点】

「やなせさんが経験した戦争をこのドラマでちゃんと描かないと、この『あんぱん』をやる意味はない」――その制作陣の覚悟は、ドラマの表現にも貫かれている。タイトルバックとRADWIMPSによる主題歌『賜物』も、従来の朝ドラのイメージとは一線を画すものとなった。

「すぐに分かりやすいものが全てにおいていいわけじゃないと思っています。朝ドラは半年間、毎朝放送されるものですから、第1週で見た時と、例えば第5週、第10週で見た時、最終週の26週で見た時の、その時々の描いている時代によって、あるいは受け取り手のいろんな環境によって感じ方が変わっていただければいいなと思っています」

主題歌制作にあたっては、作詞作曲を担当するRADWIMPS・野田洋次郎にやなせ氏に関する膨大な資料を提供し、と何度もディスカッションを重ねたという。 

「世の中の皆さんが知っているやなせ夫妻を描くにあたって、表面上の薄っぺらいものではダメだなというのは共通認識であって、詞としても曲としても深いとこまで行きたいという思いはありました。

特に一番最初の打ち合わせでお話ししたのが、『生命力』というのは一つの要素として大事ですよねということ。それから『挑戦』ということ。“これまでの朝ドラの主題歌”というイメージにとらわれずにチャレンジしてほしいし、彼らもチャレンジしたいという話の中で、最終的に生まれたのがこの『賜物』という曲なんです」

『賜物』とは何を指しているのか。

「人によっていろんな解釈があって良いと思いますが、一つは命そのもの」と語る倉崎氏は「『あんぱん』は、一度きりの人生で全員に平等に与えられた命をどう生きていくかという普遍的な物語でもあると思っています。そこに対してRADWIMPSさんが1年近くとことん向き合って『賜物』を生み出してくださった」と仕上がりに強い手応えを感じている。

戦後80年という節目に、戦争という重いテーマに正面から向き合い、“逆転しない正義”と“生きる喜び”という普遍的なメッセージを届ける『あんぱん』。制作チームが覚悟を持って紡ぎ出すこの物語が、私たちに何を問いかけ、どのような感動をもたらしてくれるのか。
最終回まで見届けたい。

【1】「戦争を描かないと『あんぱん』をやる意味はない」制作統括が語る“逆転しない正義”と朝ドラの使命、はこちらから
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