今田美桜がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『あんぱん』(総合・月曜~土曜8時ほか)が、重苦しい展開を見せ始めている。同作は、通算112作目の朝ドラで、『アンパンマン』の作者・やなせたかし氏と妻の小松暢さんをモデルとした作品。
ヒロイン・朝田のぶを今田が演じ、やなせ氏がモデルの柳井嵩を北村匠海が担当している。男勝りで勝気な性格の主人公・のぶが人気を集めている本作だが、第8週「めぐりあい わかれゆく」から、主要な登場人物の死が描かれはじめた。

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5月20日放送の第37回では、のぶの妹・朝田蘭子(河合優実)と婚約していた石工の原豪(細田佳央太)の戦死が明らかになった。豪が満期除隊を迎え、無事に帰ってくる日を指折り数えて待ちわびていた蘭子の姿が描かれていただけに、多くの視聴者にとってもやりきれない展開となった。

さらに、模範的愛国者として描かれてきたのぶが、豪の死について「誇らしいこと」と諭す場面では、姉妹は衝突することになり、視聴者はどこか晴れない気持ちを抱えたまま第8週が終了することになった。

第9週「絶望の隣は希望」では、いきなり嵩の伯父である寛(竹野内豊)が病気のために急死。寛は、嵩と弟・千尋の育ての父であり、いつでも2人にアドバイスを送り続け成長をあたたかく見守っていた人徳者だった。豪と寛は屈指の人気キャラだっただけに、一気に2人も人気者が退場することになった。

物語の途中では、のぶの結婚という喜ばしいエピソードも描かれる。しかしその背景には、嵩が想いを伝えられなかったという切なさも含まれており、素直に祝福しきれないという視聴者もいたことだろう。

さて、今後は史実で言えばさらに戦争が激しくなり、日本全体が攻撃にさらされることになる。やなせ氏は、1939年に製薬会社に就職するも、1941年に徴兵のため召集。
戦争では地獄のような日々を送った。この様子も今後の『あんぱん』で描かれることだろう。また、最愛の弟も戦死されているので、『あんぱん』の中でも弟の死を取りあつかいそうだ。中沢元紀が演じる嵩の弟・千尋は、家族思いでさわやかな好青年として大人気の登場人物だ。千尋がドラマからいなくなれば、視聴者はさらにやりきれない気分になることが予想できる。

ちなみに、1945年7月には主人公たちの故郷である「御免与町」のモデルとなる後免町は、高知大空襲によって多数の犠牲者が出ている。嵩以外の登場人物のほとんどが高知県に住んでいることを考えれば、『あんぱん』の多くの登場人物たちが戦争の被害にあうことになる。

どこまで『あんぱん』が実際の戦争を脚本に入れ込むかわからないが、早ければ6月~7月にかけて、さらに悲しいストーリーが描かれる可能性が高い。視聴者にとっては、つらく悲しい展開が続くことになりそうだ。いま以上の悲劇が待ち構えていることが予想される『あんぱん』を、これ以上見るのが辛い視聴者も多いだろう。とはいえ、ここで視聴を止めてしまうのはもったいない。

なぜなら、戦争の不条理さや悲しみを見ることで、やなせ氏が『アンパンマン』を誕生させたキッカケを、われわれは知ることができるからだ。
日本国民なら、多くの人が知っている『アンパンマン』だが、なぜ誕生したのか良く知らない人が多い。かくいう筆者も、今回の『あんぱん』の制作が決定するまで、『アンパンマン』が誕生した背景は恥ずかしながら知らなかった。

やなせ氏の生前行われたインタビューを見ると、戦争によって飢えを体験し、正義が逆転することを知りその経験が『アンパンマン』の制作につながったとされている。ということは、『あんぱん』で描かれる悲しい別れや出来事は、全てが『アンパンマン』につながると考えられる。

また、脚本を手掛ける中園ミホ氏は、やなせ氏と文通していたことがあるほどの人物だ。書籍やインタビューで明かされていること以上に、やなせ氏が戦争で何を感じて、どうやって『アンパンマン』を作り出したのかを明かしてくれるだろう。だからこそ、重苦しい展開を乗り越えても視聴を続けて、歴史的な傑作である『アンパンマン』が誕生するまでを見届けたいと考えるのだ。

重いテーマが続く展開ではあるが、それを越えてたどり着く先にこそ、『アンパンマン』の原点がある。だからこそ、最後まで見届けてこそ意味があるドラマだと感じる。物語の先にある希望を見据えて、ぜひ多くの視聴者に最終回まで見届けてほしい。

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