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そもそも、はるかは父親が家事を全くせず、母親が家事育児を押し付けられる家庭で育った経験から、結婚をせずに精子提供を受けて出産・育児をする道を選ぶ。ただ、子育て世帯に対して厳しい視線が向けられやすい現代社会、独りでの家事育児は想像以上に過酷を極め、ノイローゼになってしまう。そのため、生後3か月の我が子の面倒を見る気力もわかずにネグレクト状態に。
心身ともに追いつめられたはるかは「専業主婦なんてものが未だにしつこく生き残ってるから、女に家事を丸投げする人が減らない」と詩穂にすごむ。“専業主婦としてのうのうと暮らしている”詩穂に怒りの矛先を向け、手紙を送るようになったという。
とはいえ、立派な脅迫行為であり、その背景がただの八つ当たりだったことに、その場にいた詩穂のパパ友・中谷達也(ディーン・フジオカ)は「育児も介護も、主婦がいる前提でいまだに世の中は成り立っている」「昼間の街から彼女たちがいなくなったら、その役割を誰が担うと思う?俺もあんたも、それを考えたことがなかったんだよ」と憤慨。
育休を開始した当初の達也は、2話で詩穂に「専業主婦は贅沢」と言い放ち、どこか専業主婦を見下す態度をとっていたものの、後半には「働いているほうが楽だった。2カ月前まで家事がこんなに大変だなんて考えたこともなかった。すぐ泣く、すぐこぼす、日本語が通じない。幼児と2人きりの日々に精神がむしばまれていく」とこぼしていた。自分の過去の落ち度を認めつつ、はるかにこのセリフをぶつける姿はカッコ良い。
それと同時に、はるかやかつての達也のように、家事育児に取り組むまでは「何とかなるだろう」と甘く考えている人は多いことに気付く。
また、達也は「日本語が通じない。幼児と2人きりの日々に精神がむしばまれていく」と話していた通り、本作では子供とただただ接している時間の苦悩を吐露させている点は秀逸だ。“世間一般”では「何もしてないのだから楽では?」「むしろ子供と一緒にいれて幸せでしょ?」と思われやすく、それゆえに「子供とずっと一緒にいるのはしんどい」とは口が裂けても言えない。
とはいえ、子供と毎日長時間一緒にいることはストレスになる。子供といるのは楽しいけどしんどい。そのメッセージを真正面から描いているところは、本作ならではの切り口と言えるだろう。
タイトルの通り、本作は“家事”がメインの作品である。ただ、家事育児の過酷さばかりにスポットライトを当てているわけではない。9話では詩穂の夫で居酒屋の店長を務める虎朗から達也が“親しい関係”にあることを疑われ、詩穂は激怒して家出してしまう。
2人の仲介役となった達也は、虎朗に家事育児をしながら不倫をする余裕はないことを教えるために、実際に普段の家事育児を体験させる。一方、詩穂には「虎朗さんは店長であり、管理職でもある。
1話では虎朗が働く居酒屋にエリアマネージャーが現れて売り上げ状況を詰められたり、8話では詩穂のママ友・長野礼子(江口のりこ)の夫・量平が礼子が仕事を続けられるように転勤の話を考え直してもらうために上司に直談判するも相手にしてもらえなかったりなど、ただただ「家事育児は大変なんだぞ!」と示すだけではなく、働く人のストレスも描いているところはとても丁寧だ。
誰か1人の視点に偏らず、いろいろな立場の苦労を描くことで、誰かの立場に立って考えるきっかけになる。他者への想像力がどんどん育まれていく作品と言って良い。
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