この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。
おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、『We Live in Time この時を生きて』。気になった方はぜひ劇場へ。

【画像】愛と喪失のリアル…『We Live in Time この時を生きて』場面カット【11枚】

『Our Friend/アワー・フレンド』(2019)や『いつかの君にもわかること』(2020)のように、若くして余命宣告を受けた人物と、その家族との絆、そして理想だけでは乗り越えられない現実を描いた作品は、これまでにも数多く制作されてきた。

死への恐怖と、遺してしまう家族への不安が交錯し、「自分はこれまでの人生で何を築いてきたのか」と自問自答する日々。とくに子どもがいる場合、その成長を見届けられないことへの悲しみは計り知れない。残された時間を考えれば考えるほど、何をどうすればいいのかわからなくなってしまう。

このような心境を描く作品は存在していても、いざ当事者になったとき、それは所詮「他人事」や「フィクション」にしか感じられない。ただ一方で、不安に寄り添い、心の支えとなってくれる物語があることも事実だ。今作『We Live in Time この時を生きて』も、まさにそんな作品のひとつといえるだろう。

本作の主軸は、余命宣告を受けたアルムートとトビアスの物語だが、特徴的なのは、ふたりの出会い、恋、出産、闘病といった出来事が、時系列を無視して不規則に描かれている点にある。

一見、斬新な構成に思えるかもしれない。
だが、よく考えてみれば、人生とはそもそもそうしたものではないだろうか。日々の出来事は膨大で、記憶がよみがえるタイミングは映画のように整然とはしていない。むしろ、記憶は常に不規則に交差していく。

そして、各シーンで見せるアルムートの表情には圧倒的なリアリティがある。たとえば、癌治療による脱毛を前に、自ら髪を剃るシーン。この場面でフローレンス・ピューは実際に自らの髪を刈っている。長年伸ばしてきた髪を失うことは、身体の一部を失うのと同じこと。家族の前では平気なふりをしていても、ふとした瞬間に喪失感や寂しさが込み上げてくる。

そうした複雑な感情の機微を、ピューは繊細な表情ひとつひとつで丁寧に演じきっている。何より、時間軸がシャッフルされているにもかかわらず、表情の違いだけで“どの時期のアルムートなのか”が伝わる演じ分けは見事というほかない。

もちろん、アンドリュー・ガーフィールド演じるトビアスも、闘病中のアルムートに対して「何が正解なのかがわからず空回りする」存在として共感を呼ぶが、本作においては、やはりフローレンス・ピューの存在が圧倒的で、彼女あってこその物語だったと断言できる。

▽ストーリー
新進気鋭の一流シェフであるアルムートと、離婚して失意のどん底にいたトビアス。
何の接点もなかった二人が、あり得ない出会いを果たして恋におちる。自由奔放なアルムートと慎重派のトビアスは何度も危機を迎えながらも、一緒に暮らし娘が生まれ家族になる。そんな中、アルムートの余命がわずかだと知った二人が選んだ型破りな挑戦とは──。

▽作品情報
監督:ジョン・クローリー 『ブルックリン』
出演:フローレンス・ピュー アンドリュー・ガーフィールド
2024 / イギリス・フランス / 英語 / 108分 / カラー / スコープ / 5.1ch
字幕翻訳:岩辺いずみ / 原題:WE LIVE IN TIME / G
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
6月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
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