今田美桜がヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・月曜~土曜8時ほか)。第11週「軍隊は大きらい、だけど」では、軍隊に召集された嵩(北村匠海)の過酷な日常が描かれた。
ところが、渦中にあっても嵩は“たっすいがー”のまま変わろうとしない。

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子どもの頃から、自分の意見を強く言えない内向的な性格だった嵩。それは大人になっても変わる気配はなく、母・登美子(松嶋菜々子)の奔放さに振り回されつつ、飄飄(ひょうひょう)と生きてきた。長年胸に抱えてきたのぶ(今田美桜)への想いも、伝えられぬまま失恋に終わったが、それでも「こんな自分を変えよう」と必死になることすらなかったのである。

そんな嵩に対して「成長していない」と感じる視聴者もいただろう。しかし、「どんな時も変わらないと」いうのも、実はすごいことなのではないかと私は考える。

戦時中は、私たちが想像もつかないほど、世間も人もめまぐるしく変化していた。家族が兵隊に取られ、それでも「武運長久」を祈るしかない時代。大切な人を失っても「立派だった」と、自分に言い聞かせるしかない時代。軍隊という厳しく理不尽な空間に身を置きながら、自分自身のあり方を守り続けるのは決して容易なことではないはずだ。

それは、現代に生きる私たちも同じである。働く環境や付き合うパートナー、その時々の流行に、いつの間にか染まってしまうこともあるだろう。
ステータスやお金、目先の利益に目がくらみ、本来の自分を見失ってしまう人もいる。他人に対して「あの人は変わってしまったな」と、勝手にがっかりした経験がある人も多いのではないだろうか。

しかし嵩は、軍隊に入っても嵩のままだった。理不尽に殴られても声を上げるわけでもなく、「もっと強くなろう」と肩に力を入れて臨むこともない。詩集を読み、絵を描き、子どもの頃と同じように康太(櫻井健人)に自分のご飯を分け与える。昇進しても威張ることはせず、後輩に対しても分け隔てなく接していた。

実は嵩は周りに流されやすく見えて、自分の芯がしっかりあるタイプなのだ。軍隊に馴染めず劣等感に駆られたり、「もっと強くならないと」と必死になる人もいる中で、嵩は自分が軍隊に向いていないことをあっさり認めている。そして嵩は、自分が軍隊に身を置けているのは、上官の八木(妻夫木聡)のおかげだということにもきちんと気がついている。真正面から八木にお礼を言える、いい意味での“プライドのなさ”も、嵩の長所の一つだ。

困難に直面したとき、自分の武器を増やそうとするのももちろん素晴らしいが、自分の弱さを認めることも大切だ。そして、自分が今持っている武器を見つめ直したり、磨いてみたり、時には人に頼ってみたり。
そんな風に「変わらない」でいることも、時には必要なスキルなのだと考えさせられた。

だが、嵩がこの先を生き延びるためには、「卑怯者」にならなければならない場面もきっとある。それは彼がもっとも苦手とすることで、そう簡単に克服できることではないのは明らかだ。

果たして嵩は、自分の中の何かを変えて「生きて帰る」という信念を貫き通すのか。それとも自分に備わっている武器をどうにか活かして、卑怯者になるという道を避けながら生き延びていくのか。我々視聴者も、自分自身の信念に向き合いながら、ますます過酷になる嵩の運命を見守っていきたい。

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