終活をテーマにした綾瀬はるか主演のドラマ『ひとりでしにたい』(NHK総合)が放送されている。終活……とはいっても、行動を起こすのは適齢期の高齢者ではなく、30代後半、未婚、恋人なし、マンションありの山口鳴海(綾瀬)。
老後、年金、葬式とリアリティーのある内容が話題を呼んでいる。今回は本作のプロデューサーである、高城朝子さんにドラマや出演者について話を聞いた。彼女も鳴海と同じく、終活経験はゼロ、未婚、仕事大好き人間。それだけに作品、視聴者へ海よりも深い愛情を持っていた。(聞き手・小林久乃)

【写真】綾瀬はるか主演『ひとりでしにたい』場面カット【5点】

◆属性の違う女性同士の「かわいそう」合戦を止めたい

――終活がテーマの漫画『ひとりでしにたい』をドラマ化したいと思ったきっかけはなんでしょうか?

高城 元々、面白い原作であることは知っていたんです。でも私と同じ、独身で会社員の鳴海の姿や、終活の解像度が高すぎて……読むと身につまされるものがありました。それでドラマ化するのはしんどいだろうと、見て見ぬふりをしていたんですよ。

――わかります。私も独身、子なし、賃貸住まいなので原作を読み進めるのが辛いというか、勉強になるというか。

高城 自分が独身で生活していると、色々な疑問があるんですよ。例えば“かわいそう合戦”。第一話で出てきた、孤独死した独身の伯母(山口紗弥加)を鳴海は「かわいそう」と思っている。
そうかと思えば、自分も周囲から「かわいそう」と見られている。別に独身はかわいそうではないですし。

――伯母の遺品から出てきたバイブレター、ありましたよね。あれも独身が持っていると「かわいそう」。

高城 そうです。バイブレーターは最終話まで出てきますけど、だんだん「かわいそう」ではないように変わっていきます。私なんて35から40歳くらいまでかな。社会から圧を勝手に感じて、毎朝「子どもも産んでいなくて、社会になんの役にも立っていない」と、落ち込んでいたことがあります。だからかなあ……最近、40歳過ぎたら気持ちが楽になっている自分がいます。よく考えたら今、日本が少子化であることなんて社会のせいであって、誰のせいでもないんですよ。そんな思いがあって、ドラマ化には躊躇していたんですね。

◆「30代後半で終活?まだ婚活でしょ」

――高城さんの進まなかった気持ちを、スタッフの若手男性の意見が後押しをしたそうですね。


高城 29歳の男性スタッフが原作を持って私に「これ面白いからドラマ化したい」といってきたんですよ。彼はバブル期のことはもちろん知らなくて、生まれた時から不景気の日本で育ってきたから、被害者意識が高かったそうです。でも『ひとりでしにたい』の原作を読んで、登場人物の女性たちがありとあらゆる役割を押し付けられていると知った。自分だけがパッとしない、納得のいかない生活を送っているわけではない。このことを反省したそうです。この意見を聞いて、私も企画書を書こうと思いました。

――ドラマオタクなので相当の数のドラマを見ているのですが、「孤独死」「老後」をテーマにするドラマは日本初ではないでしょうか?

高城 そうかもしれません。私がドラマ化の許可を取ろうと思って、出版社さんに電話したら「映像化のお話はたくさんいただいていて……」と言われたんです。ただ企画が通らない。終活が題材にあるだけに、スポンサーがつかない理由もあります。でも一番は「30代の女性が終活? まだ30代なら結婚できるでしょ~~?」と、古い感覚で切り捨てられることが多いからかもしれません。なんか、悲しいですよねえ。


◆綾瀬はるかさんの演技は世間の価値観を変えてくれるはず

――そういった普通の人にとっては気になるテーマだからこそ、キャスティングが難航したのでは……?

高城 一番は主演を誰に演じていただくか、でした。それこそ主人公が「かわいそう」とか、イタく見られてしまったら、ドラマとして面白さが半減してしまう。例えば第2話で「お願いだからお父さん死んで!」というシーンがあるんですけど、これを言っても嫌な人に見えないのが綾瀬さんの凄いところなんですよ。オファーをしたらご本人が「原作が面白かったから」と、出演を決めてくださったんです。ご自身も独身ですし、ちょうど近しい人が亡くなったタイミングだったことも理由にあったかもしれません。

――綾瀬さんといえば過去に『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系・2007年)で、恋愛を放棄して家でぐうたら過ごす……

高城 干物女! ですよね! あの作品で世間の価値観を変えてくれたんですよ。それまでだと休みの日に、女性がジャージでダラダラと昼間から飲んでいるのはタブーでしたらからね。終活も明るいイメージに変えてくれるはず、と思っています。

――綾瀬さん、撮影現場でも明るく振る舞っていそうです。

高城 本当は人見知りだと思うんですけど、慣れない現場に緊張しているであろうコウメ太夫さんに積極的に話しかけたり。他にも現場にカメラマンのアシスタントさんがいないことにも「今日はどうしたの?」って気づくんですよ。私のマスクが逆になっていることも教えてくれたり。
座長なんですよね。那須田役の佐野勇斗さんもそうなんですけど、みんな真面目で誠実で……。

――第2話の放送ではその鳴海と那須田の関係は変わっていくのでしょうか。終活話に男女が出てくると、どうしても色々と考えてしまいます。

高城 終活だけではなく「結婚ってなんだっけ?」というシーンも出てきます。「あれ? この感情が何なのかわからない、恋愛かな?」「でもなんか気になる」「一緒にいたい」と。結構、物語にドライブがかかってくると思うので、キュンキュンしながら見てほしいですね。

◆主人公が高年齢のドラマがあってもいい

――『ひとりでしにたい』を経て、高城さんがこれからドラマを作ってみたいと野望がわき出ているテーマはありますか?

高城 たくさんあります。例えば今まだ日本でも隠してしまうことの多い、更年期のこととか……。それだけではなく、当たり前である価値観に疑問を投げかけるモノを作っていきたいんです。昔『冬のソナタ』(N H K総合・2002年)が放送されたときに、世間の韓国に対する印象がガラッとポジティブなものに変わりましたよね。政治家がどんなに頑張っても変わらなかったのに、ドラマ一本が変えて、K-POPも日本に入ってくるようになりましたから。
あとは、主人公が高年齢で「こんなふうに歳を重ねたい」と見た人に思ってもらえるものも、いいなあ……(遠い目)。これからもドラマのダイバーシティーをグッと広げていきたいです。

▽高城朝子(たかぎ・あさこ)
映像プロデューサー、大阪府豊中市出身、(株)テレビマンユニオン所属。数多くのドキュメンタリー作品ほか『仮想儀礼』(2023年)『母の待つ里』(ともにNHK総合・2024年)などを手がける。猫好きの明るい独身

▽土曜ドラマ「ひとりでしにたい」
N H K総合 毎週土曜22時放送 <全6回放送>
出演:綾瀬はるか 佐野勇斗 山口紗弥加 小関裕太 恒松祐里 満島真之介 國村隼 松坂慶子

▽第二話あらすじ
「終活」について考え始めた鳴海(綾瀬はるか)は「自分より、親の老後が先にやってくる」ことに気がつく。もし親に介護が必要になったら自分が世話を? 仕事をしながら介護できるのか? 亡くなった場合の葬儀代は? それらすべてを自分が背負わなければならなくなったとしたら...自分の終活どころではない! そこで鳴海はまず父・和夫(國村隼)と母・雅子(松坂慶子)に「終活」を始めてもらおうと、ある作戦を思いつく。そのために同僚・那須田(佐野勇斗)を連れて実家を訪れるが...。

【あわせて読む】なぜ『しあわせは食べて寝て待て』は「何も起きない」のに心に刺さるのか? NHKの地味ドラマの魅力
編集部おすすめ