この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。
おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、『28年後…』気になった方はぜひ劇場へ。

【画像】『28年後…』場面カット【6点】

▽ストーリー
感染から28日後、28週後——。急速に広がった未曾有のパンデミックにより、文明は崩壊。<感染者>は人間性を無くし、人間ではないものに変わり果てた。感染を逃れた<人間たち>は、ウイルスが蔓延した本土から離れ、孤島に身を潜めている。本土と島をつなぐ一本の土手道は干潮時しか現れない。対岸にいる感染者たちから身を守るため、島の住民は厳しいルールに従って暮らしているが、 ある“極秘任務”を実行するために、ジェイミーと息子のスパイクは禁断の地に足を踏み入れていく。 そこで彼らが目にしたものは——

▽おすすめポイント
彗星のごとく現れた新進気鋭のホラー作家の作品かと思わせるような、斬新さと荒々しさが絶妙にブレンドされた本作。しかし、監督を務めたのは『トレインスポッティング』(1996)や『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)で知られる、アカデミー賞受賞監督のダニー・ボイルである。つまりこれは、68歳にしてなお進化を続けるボイルの才気が炸裂した、衝撃的な一作なのだ。

シリーズの原点である『28日後…』(2002)では、登場するのはゾンビではなく、“レイジウイルス”によって凶暴化した人間たち。
感情の抑制が利かず、本能のままに暴走するその姿は、まるで原始人のようだ。そこから28年が経過した本作では、感染がステロイド的に作用して超人的な力を持った“アルファ”や、食料を求めるだけの肉塊と化した“スローロー”など、新たな亜種が登場。感染者のバリエーションが大きく広がっている。

ジャンル映画としての枠を守りながらも、演出にはゲーム的な要素が加わり、視覚的な刺激が強化されている。

中でも、“アルファ”の中でも異様な存在感を放つ巨体のサムソンを演じるのは、ADWヘビー級王者のチャイ・ルイス=ペリー。『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(2024)にも出演しており、その圧倒的な存在感はまさに“進撃の巨人”そのものだ。サムソンに掴まれたら最後、頭を引きちぎられるという恐怖を、アトラクションのような臨場感で描いている点も印象深い。

一方、感染を免れた人間たちはコミュニティを築き、新たな生活や秩序を手に入れていく。しかし皮肉なことに、文明が崩壊してもなお人間同士は争いを繰り返す。偏見や差別にまみれたその姿は、まさに“野蛮な生き物”としての本質を露呈させる。戦争のフッテージ映像が差し込まれる演出も、そのアイロニカルな視点を際立たせている。

脚本を手がけるアレックス・ガーランドは、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024)でも監督・脚本を務めており、本作にも「価値観の違いによって分断された世界」という共通のテーマが見受けられる。


もともと同じ人間だったはずなのに、感染者を“トロフィー”のように狩り、ゲームのように楽しむ人間たち。それに対峙するのは、本能のままに動く感染者たち――。人間とは何のために生まれ、何をするための存在なのか?そんな根源的な問いが、明確な答えのないまま観る者に突きつけられる。

そして本作では、パンデミックを知らずに育った若い世代の視点から、戦争や崩壊を語るという構図が描かれる。日本でも戦争を知らない世代が主流となりつつあるが、劇中でも、戦争を知る世代と知らない世代が意見をぶつけ合う描写を通じて、人間の本質に迫ろうとする意図が読み取れる。

本作は三部作構成の第1作として、多くの伏線や設定が散りばめられており、続編を見据えた構成になっている。次作『28 Years Later: The Bone Temple(原題)』は2026年公開予定であり、『キャンディマン』(2021)で“ブラック・ライヴズ・マター”を描いたニア・ダコスタが監督を務める。次は“ゾンビ・ライヴズ・マター”的なテーマへと進化していくのだろうか?!

▽作品情報
原題:28 Years Later
US 公開日:6月20日
監督/プロデューサー:ダニー・ボイル
脚本/プロデューサー:アレックス・ガーランド
エグゼクティブ・プロデューサー:キリアン・マーフィー
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン、レイフ・ファインズ、ジョディ・カマー、アルフィー・ウィリアムズほか
6月20日(金)全国の映画館で公開
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