今田美桜がヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・月曜~土曜8時ほか)。加瀬亮、竹野内豊、二宮和也、松嶋菜々子ら豪華キャストの出演が話題となっているが、今回は同作に出演している若手男性俳優5人に注目。
その演技力を振り返ってみたい。

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まず1人目は、“豪ちゃん”こと原豪を演じた細田佳央太。過去には『ドラゴン桜 第2シリーズ』(TBS系)で発達障害を持つ生徒役、『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』(テレビ朝日)では盲目の青年役、『あの子のこども』(フジテレビ系)では、彼女を妊娠させてしまう高校生役を演じるなど、難しい役どころに挑戦している俳優だ。

今作で演じた豪は、のぶ(今田美桜)の祖父・釜次(吉田鋼太郎)の弟子という役どころ。生い立ちや年齢、なぜ朝田家で暮らすことになったのかなど、具体的な背景は全く明かされず、最後までふわっと抽象的なイメージのキャラクターであった。

朝田家でのぶたちと共に生活しながらも、どこか一定の距離を保ち、「自分は外の人間だ」という意識が垣間見える豪。年下の蘭子やメイコ(原菜乃華)にも“さん”付けで接し、家族の会話にも深入りしない。細田はその微妙な距離感を繊細に表現していたように思う。蘭子との結婚の約束は果たせず、わずか8週で退場となってしまったが、細田の細やかな演技が豪の一途な思いを強く印象づけたことだろう。

2人目は、嵩(北村匠海)の弟・千尋を演じた中沢元紀。中沢は、2022年にWEBCMドラマ『メゾンハーゲンダッツ ~8つのしあわせストーリー~』で俳優デビューを果たしたばかり。『あんぱん』で初めて彼を知ったという視聴者も多かったのではないだろうか。


千尋は、兄の嵩よりも背が高く、柔道で鍛えた体格とストレートな男らしさが魅力の人物。のぶに向ける真っ直ぐな眼差しや、パン食い競争でのさりげないアシスト、朝田家にラジオをプレゼントする姿など、細やかな気遣いも印象的だった。

一方で、幼少期に養子に出された過去を持ち、内面には複雑な思いを抱えていた千尋。普段は自分の気持ちをグッと我慢していたが、初めての兄弟喧嘩ではこれまで抑えていた感情を爆発させた。さらに、海軍として出征する前の“最後”の会話でも、冷静な表情から感情や欲望をあらわにするまでを熱量高く表現。演技経験の少なさを感じさせない、情熱的な芝居で視聴者をくぎ付けにした。

中沢は現在、ドラマ『最後の鑑定人』(フジテレビ系)に出演中。今後ますます注目される俳優になるに違いない。

3人目は、嵩の親友・辛島健太郎役の高橋文哉。『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日)で注目を集め、恋愛作品にも多く出演してきた王道イケメン俳優だ。だが今作では、やや垢抜けない印象の短髪青年を好演。博多弁での演技にも挑戦している。


健太郎は、友達思いの“良いヤツ”であることは間違いないのだが、どこか緊張感がなかったり、メイコからの好意に気づかなかったりと、マイペースで鈍感な一面も持つ。高橋のキラキラしたイメージとはかけ離れているキャラクターということもあり、彼の魅力の一つである甘い演技は封印。時代の空気感や嵩とのコンビネーション、方言など、絶妙な掛け算で見事“辛島健太郎”という人物を作り上げた。

高橋は7月公開の映画『夏の砂の上』にて、オダギリジョーや松たか子、満島ひかりら演技派俳優たちと共演。『あんぱん』をきっかけに、若手イケメン俳優の枠を超え、さらに飛躍していくことだろう。

4人目は、嵩の同級生・岩男を演じた濱尾ノリタカ。嵩をいじめたり、パン食い競争でズルをしたりと“嫌われ役”として登場したキャラクターだが、後に中国・福建省で再会した際には優しい父親の顔を見せた。現地の少年・リンと無邪気に戯れる姿は、かつての岩男とは別人のようで、ギャップある演技に「一気に岩男が好きになった」という声も寄せられていた。

濱尾は185cmの長身で、『あさイチ』(NHK)では「博多華丸・大吉に似ている」と話題になるほど濃い顔立ち。映像の中でも抜群のオーラを放っていたが、その演技は的確でシンプルな印象だ。役として一瞬たりとも無駄な視線や動きがなく、短い出番の中でも岩男の心情の変化を的確に表現していた。最後はリンの返り討ちによって命を落とすという衝撃的な展開になったが、自分の運命を受け入れ死にゆく姿は多くの視聴者の心に響いたことだろう。


濱尾は現在放送中の月9ドラマ『明日はもっと、いい日になる』(フジテレビ)に出演。児童福祉士として子ども達と接する姿に、つい岩男とリンを重ね合わせてしまいそうになりながら、今後の活躍も見守りたい。

最後は、高知新報で働く石清水信司役の倉悠貴だ。倉は『おちょやん』でヒロインの弟を演じて以来、二度目の朝ドラ出演。その後も『半径5メートル』、『わたしの一番最悪なともだち』、『シリーズ・横溝正史短編集IV「金田一耕助、悔やむ」』と、NHK作品の常連になりつつある。

倉は、役によって雰囲気をがらりと変えるカメレオン俳優。どの作品でも、髪型や衣装、メイクだけではなく、視線や佇まい、声の出し方など細部までこだわり尽くした役作りが光っている。今作で演じている石清水は、嵩やのぶのような強い個性はないが、「彼がいなければこの編集部は成り立っていないだろうな…」と視聴者に思わせる、静かなる存在感を漂わせている。それは、倉の計算し尽くされた役作りがあってこそ。津田健次郎演じる編集長・東海林とのコンビも抜群だ。

倉は今年から来年にかけて、出演映画4本の公開が決まっている。他作品でどんな演技を見せてくれるのか非常に楽しみだ。


ベテラン俳優が多数出演する『あんぱん』だが、こうした若手俳優たちの確かな演技もまた、作品を支える大きな力となっている。すでに物語から退場したキャラクターたちも、新たな役に“転身”して活躍中。今後も、彼らの若さあふれる表現から目が離せない。

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