朝ドラ『あんぱん』には、複数の未亡人が登場する。彼女たちは夫の死を乗り越え、しなやかに生きている──。
ドラマに描かれる「未亡人像」の変化を通して、現代女性の自立や価値観の変化を読み解く。(文・小林久乃/コラムニスト)

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◆朝田家は女性陣が元気だ

朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)を見ていて、ふと気づいた。主人公の実家となった朝田家には未亡人が多い。若松のぶ(今田美桜)は、夫の次郎(中島歩)を肺の病気で亡くした。もし戦時中でなければ、必要な薬や治療を受けられたかもしれない、無念の死だった。ただやっと、長年のすれ違い? が溶けて幼なじみの柳井嵩(北村匠海)と結ばれたのぶ。本当に良かった……。

のぶの妹・蘭子(河合優実)も、未亡人ではないけれど婚約者の原豪(細田佳央太)を戦死で失った。母・羽多子(江口のりこ)も夫であり、のぶや蘭子の父と病死で別れている。祖母・くら(浅田美代子)も最近、夫を失った。ただくらの場合は加齢によるものなので、想定外の出来事ではないとしておこう。

時代背景が戦後なので頻発したのかもしれないが、それにしても多い。
そして皆、伴侶の死後も前を向いて健やかに生きている。そんなふうに『あんぱん』を思い返していたら、他にも未亡人が多数登場したドラマがあったと、記憶が蘇る。それが今年の春放送された『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)だ。

◆長倉和平は未亡人モテが半端ない

『続・続・最後から二番目の恋』は定年退職を控えた、59歳の吉野千明(小泉今日子)と、鎌倉市役所に再雇用で勤務する63歳の長倉和平(中井貴一)を中心に描く物語。この長倉和平が多くの未亡人から求愛を受けている。第3シリーズの本作では、商社マンの夫を亡くした早田律子(石田ひかり)から交際を申し込まれた。千明の存在が気になる和平は律子かからの申し出を断るが、その背後には第2シリーズから和平に思いを寄せる、鎌倉市長の伊佐山良子(柴田理恵)も構えていた。ちなみに同シリーズでは、娘のえりな(白本彩奈)のボーイフレンドの母親・原田薫子(長谷川京子)からもジリジリと詰め寄られていた和平。薫子は夫を事故で亡くしている。

和平の未亡人からモッテモテ列伝はまだ続く。2012年に放送された、作品ファンの間では伝説のスペシャルドラマ『最後から二番目の恋2012秋』。鎌倉市を世界遺産にするため、親善大使を頼んでいた作家の向坂緑子(萬田久子)から、体の関係を求められてしまう和平……。
緑子の夫も死因は不明だが亡くなっている。第1シリーズでは、第2シリーズで弟の嫁の母、つまり家族となった、大橋秀子(美保純)からも好意を示された。つまり和平はパートナーと死別した経歴のある女性から、続々と愛されている。ついでに和平も妻を亡くした寡夫だ。『続・続・最後から二番目の恋』のロスも多く、続編を期待する声が早くも寄せられているけれど、このモテ伝説も続くのかもしれない。

ドラマの設定ではあるけれど、なぜ未亡人が多いのか。ここで「独特の哀愁がある」「成熟した色気が感じられる」「誰かに選ばれた魅力がある」と答えるのは、だいぶステレオタイプだと自覚した方がいい。それは専業主婦が女性の生き方の主流だった、昭和の映画やドラマで終わった。

当たり前で書くのも憚れるが、今は女性も経済的に自立している。夫を失うのはとても辛いし、実際に知人で何人かそういう女性を見てきた。ただ、皆、絶望の淵に佇むだけではなく、立ち上がっている。妻を支えているのは夫だけではなく、仕事もあるからだ。
先述の昭和作品であれば未亡人は水商売をするのか、誰かの妾になるのか、子どものために昼夜身を粉にして働くのかと、ややダークなイメージがあった。けれど彼女たちにとって、死別は絶望や孤独ではなく、一つの経験であり、運命。世間はそう解釈して彼女たちと接している。ドラマの設定の一つのフックとしては、取り込みやすいのだろうと思った。

時代のひとつの進歩をドラマから知った。女は強い。

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