【写真】最後は豪快なダイビングセントーンで決着、中島翔子vs渡辺未詩【3点】
もう女子プロレスを取材しはじめて30年以上が経つが、いまだに現場を離れられずにいるのは、やっぱり「おっ!」と感情を揺さぶられる試合に出会えているからだ。何万試合も見てきているのに、そういう瞬間に立ち会えるのはやっぱり刺激的だし、なによりも「これは記事にしたい!」という記者魂に火をつけられる。
この夏、火をつけられたのは、まさかの海外からの配信だった。
東京女子プロレスでは7月10日から13日までアメリカ遠征を敢行。ヒューストンとダラスで計3大会を開催するテキサス決戦はすべての大会が超満員札止めとなった。7月8日まで日本で試合をして、帰国後にはすぐに大田区でのビッグマッチというなかなかハードなスケジュールとなったが、そうなるとやっぱりアメリカでの試合も大田区の前哨戦の色合いが濃くなってくる。
最終日のダラスではセミ前に中島翔子と渡辺未詩のシングルマッチが組まれた。これは大田区でのタッグ選手権の前哨戦ファイナル。とはいえ、ここはアメリカだ。入場時から完全に「できあがっている」超満員の観客のノリを見ていたら、明るく楽しく弾けるプロレスが展開されるんだろうな、と思ってみていた。だって入場時からふたりともノリノリだったのだから。
ところが、である。オーソドックスなロックアップでスタートした試合は、そのまま地味なグラウンドの展開に。地味とはいえ、ずっとお互いの腕や足を取り合っているから、まったく動きは止まらない。そして、いつしかふたりの攻防はひたすらヘッドロックを取り合うだけの展開に。
あれだけ入場時に会場が盛りあがっていたのだから、それこそドロップキック一発、619一発でドッカンドッカン沸きまくることは間違いなかった。ダラスのファンもきっとそれを求めていたのだろうし、言葉は悪いかもしれないが、そういう試合をやったほうが楽に満足させられた。それなのに、なぜ、ふたりはあえてヘッドロックの取り合いという、プロレスの中でも、もっとも地味な攻防にこだわったのか?
あきらかに仕掛けたのは中島翔子だった。帰国後、この試合について、直接、彼女に聴いてみた。
「たしかにアメリカではこういう試合展開はあまり求められていない、ということはわかっていました。でも、自分が得意とするところは、そういうレスリングなので、よしっ、粘れるだけ粘ってやろうって。会場がシーンとしてしまうことは怖くなかったか、ですか? あぁ~、それはまったく考えていなかったですね。あのときは申し訳ないですけど、自分のやりたいレスリングをやることしか頭になかったので、お客さんの反応とかは気にならなかったです」
試合の出だしがそういう展開になることは多々、あるが、中島翔子が粘ったことで試合開始から5分以上、地味な展開が続いた。
今、アメリカの女子プロレス業界では日本人選手が大活躍している。それは非常に誇らしいことではあるが、日本で実績を残した選手たちがメジャーリーグで結果を出しているようなもの。対して、この日、中島翔子が渡辺未詩に、そしてダラスの観客に仕掛けたのは「ニッポンの女子プロレス」の神髄を見せつける、という実験。それを完遂してみせたのは、やっぱり誇らしい! 当の本人は「あんまり外に向かって発信するのが得意じゃないので……」とアピールしないが、だったら周りはおもいっきり評価してあげるべき、だと思った。
それだけのことの前哨戦でやってのけたというのに、大田区の本番では……普段、東京女子プロレスを見ない方たちにもわかりやすく説明すると『二人乗り改造自転車で対戦相手を轢こうとする中島翔子チームを、巨大なさすまたで排除する渡辺未詩チーム』という超絶展開。まぁ、この振り幅こそプロレスの魅力だし、ヘッドロックの取り合いだけでアメリカを唸らせたふたりがこれをやっていることが逆にすごいわけで。なにより観客が喜んでいるのだから、大正解なのである。
そんな騒乱のあと、リングに戻った中島翔子は静かに渡辺未詩に握手を求めると、そこからダラスでのあの闘いを彷彿とさせるレスリングの攻防がスタート。ここからイッキに試合は熱を帯び、25分を超えて、誰もが時間切れ引き分けを意識したところで中島が豪快なダイビングセントーンで逆転勝利。
女子プロレスには華さえあれば、それでいい、と言う人も少なからずいる。その言葉の裏には「どうせ、たいしたことできないんでしょ?」という偏見が見え隠れすることが多いので、カチーンと来ることも多いのだが、これだけストロングでタフなプロレスがしっかりとできた上で華まであるんだから、ニッポンの女子プロレスは世界で評価されているのだ。隠れた快挙をダラスでやってのけ、その闘いを大田区までひっぱってきてくれた中島翔子と東京女子プロレスに感服。これだから何十年経っても、女子プロレスの現場から離れることはできないのである!
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