今田美桜がヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・月曜~土曜8時ほか)。第17週「あなたの二倍あなたを好き」では、嵩(北村匠海)の長年にわたる片思いがようやく実を結んだ。
まさに“ガード下で愛を叫ぶ”熱烈な告白シーンに、視聴者からは「神回だった」「キュンキュンした」といった声が多数寄せられた。さて、今回はこの『あんぱん』を、ヒロインの成長物語としてではなく、あえて“ラブコメ”という視点から読み解いてみたいと思う。

【写真】『あんぱん』第17週でついに結ばれたのぶと嵩【5点】

第一に、のぶ(今田美桜)と嵩は幼なじみという関係である。史実とは異なる設定だが、主人公の二人が幼なじみというのは、ラブコメに置いて王道中の王道だ。その意味で、『あんぱん』にはもともとラブコメの素地が備わっていたといえる。

さらに、鈍感で気が強いヒロインが、幼なじみの兄弟両方から好意を寄せられるという状況も、ラブコメ的には申し分ない。北村匠海と今田美桜、注目若手俳優・中沢元紀による恋のトライアングルは、月9でも違和感なく通用する構図である。

ただし、今作はやなせたかし氏と、妻・小松暢氏をモデルとしているため、嵩とのぶが最終的に結婚することは視聴者の全員が知っている。したがって、「二人がどう結ばれるのか」が物語の見せどころというわけだ。

二人が結ばれる過程でもっとも大きな出来事といえば、のぶと次郎(中島歩)の結婚だろう。史実に基づいているとはいえ、嵩にとっては非常に酷な展開であった。しかも、相手は面識のある人物ではなく、ポッと出の得体の知れない男性である。
自分よりもあらゆる面で格上の次郎に、嵩は嫉妬する余地すら与えられなかったのだ。

次郎の死後、嵩は「入社試験を受けた会社に初恋の女の子がいる」という千載一遇のチャンスを手にした。のぶそっくりな女の子を雑誌の表紙に描き、嵩なりにアプローチしたものの、鈍感なのぶは全く気付かない。何も進展がないまま、のぶが高知新報を辞めて東京に行くことになり、二人は遠距離になってしまう。

遠距離は、恋愛において大きな障壁になり得る。実際、のぶが高知の女子師範学校、嵩が東京の美術学校に進学した時には、物理的な距離が心の距離に影響し、大喧嘩になったのである。

二度目の遠距離にヒヤヒヤしたものの、地震による“音信不通”を経て、のぶはようやく嵩の大切さに気付く。地震の最中も呑気に寝ていたという嵩に、のぶは「この1週間、眠れっちゃあせんがや!」「あんたらあてもう起きんでえい!一生寝よれ!」と激怒。その姿を見て、私は「のぶが走り出した!」とつい喜んでしまった。

のぶを優しく包み込み、心のブレーキになってくれていた次郎には大変申し訳ないが、“ハチキンおのぶ”の本領が発揮されるのは、いつも「走っているとき」なのである。そしてのぶを走らせるのは、いつも嵩の存在だった。嵩が忘れた受験票を届けに行ったとき、突然姿を消した嵩を探しに行ったとき、あるいは「たっすいがーはいかん!」と怒っているとき。
嵩といる時ののぶは、いつも走っていたのだ。

第85回の告白シーンでも、やはりのぶは走っていた。「愛しています」と言い逃げしようとする嵩を、のぶが「待って!たっすいがーはいかん!」と呼び止め、嵩の元に駆け寄る。そのままの勢いで抱き着くと、「好きや」「嵩の二倍、嵩が好き!」と告白したのだ。のぶを走らせるのはやっぱり嵩なのだなぁと分かる、完璧な告白シーンだったと思う。

これにて、長かった『あんぱん~片思い編~』は終了である。今後の両想い編、そしてその後の結婚生活編を楽しみにしつつ、いよいよ訪れる「アンパンマン」誕生の瞬間を、楽しみに見届けたい。

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