【画像】『ドルヲタネバーダイ』第1話を読む【14点】
――まずは『ドルヲタネバーダイ』を描くことになったきっかけから教えてください。
田辺 4年ぐらい前に、当時は『週プレ(週刊プレイボーイ)』で『AKB48グループ4コマ劇場 よんぱち+』という4コマ漫画を描いていたんですが、ずっとオリジナルの漫画を描きたいという思いが強くて、どこかで描けないかなと悩んでいたときに、ちょうど双葉社さんからお声がけをいただいたんです。しかも担当編集の方がアイドル雑誌をやっていたので、共通言語が多かったんですよね。漫画誌の編集さんと話していても、「SKE48だとこうですよね」みたいなアイドルのたとえ話が、なかなか伝わらないですから。それが伝わる上に、僕がやりたいことに対して背中を押してくれる方だなと感じて、それにお応えしたいという気持ちが、やっと形になったのが『ドルヲタネバーダイ』です。
――タイムリープという設定は最初からあったのでしょうか。
田辺 まずは失恋モノを描いてみたのですが、読後感が悪くて。でも失恋のほうが面白いドラマを描けるなと思って、失恋しても傷つかないような仕掛けをいろいろ積み重ねていった結果、タイムリープものになりました。
――主人公・神田太一は、田辺さん自身を投影しているのでしょうか。
田辺 ほぼ僕ですね。太一は36歳のドルヲタで、16歳に戻るんですが、それを思いついたのは自分自身の経験からです。
――太一が10年を捧げたアイドル、“マヤヤ”こと遠藤まやにモデルはいますか?
田辺 みんなが思い描くスターにしたかったのですが、僕の中では、あやや(松浦亜弥)が一つの象徴だなと思っていて。それで愛称をもじってマヤヤにしたのですが、特定の誰かというよりは、時代時代にスターはいますし、世代によっても違うので、そこは各々が好きだったアイドルに重ねてもらえればいいなと。
――大島美久、小松紗英、渡辺千穂といった女性キャラクターも、アイドルファンなら「もしかして、このアイドルかな」と想像できる名前ですよね。
田辺 そこは、あえて名前は挙げませんが察してもらえると(笑)。キャラクターを分かりやすく描くときに、たとえば「ゴミ箱の中身が分かるぐらい考えます」とか、「誕生日から家族構成までリストがあります」とか、漫画家によっていろいろなタイプがいると思うんです。僕は細かく裏設定を考えるタイプではなくて、リアリティを出すときに、よく知っているアイドルをそのまま描くんです。そうすると、その子が次に何を言うか手に取るように分かるんですよね。
――過去にもオリジナルキャラで実在のアイドルを投影することはあったのでしょうか?
田辺 以前、『ジャンプ+』で『あの娘ぼくがヲタ芸決めたらどんな顔するだろう』という漫画を描いたんですが、主人公がショートカットの金髪キャラということで、篠崎こころちゃんをモデルに描きました。それがこころちゃんに伝わって、公認をもらって、コラボ写真集まで作ったんです。実在しているアイドルをモデルにすると、たくさんの映像や写真があって、360度で見ることができるから作画もしやすいんです。
——『ドルヲタネバーダイ』で特に伝えたいことは何でしょうか。
田辺 これだけ「推し活」とかカジュアルに言われるような時代でも、いまだにドルヲタって白い目で見られるところがあるじゃないですか。でも、僕はドルヲタに寄り添いたいし、ドルヲタの味方でいたいんです。太一は一話で、マヤヤが引退したことに絶望して自殺しますが、そこから再起をする。これは僕の物語でもあるので、再起して、青春をやり直すんだという思いもありつつ、この漫画を読んだドルヲタ全員が幸せになってほしいと思いながら描いているんです。だから、どうにかしてハッピーエンドにしてあげたいですね。
——太一の能力が、「握手会でコミュ力を高めた」など、ドルヲタらしいのも最高です。
田辺 この漫画は転生モノですが、一般的な転生モノって、めっちゃ強くなったり、「俺にはこんな力があったのか」と無双する話が大半です。この漫画の場合、ドルヲタの知識と経験しか持っていないから、むしろマイナスかもしれない(笑)。その枷を持ってドラマを進めていくんですが、「君たちがオタ活で得たスキルは役に立つぞ」というメッセージを届けるために、なんとか知恵を働かせて、毎回切り抜けていくようにしています。やっぱりドラマって困難な展開のほうがハラハラするじゃないですか。
▽『ドルヲタネバーダイ(1)』
2025年8月28日発売
著者:田辺洋一郎
出版社:双葉社
価格:792円 (本体720円)
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