「アイドルにくわしい漫画家」として、『AKB48グループ4コマ劇場 よんぱち+』を始め、様々な作品を発表してきた田辺洋一郎。氏の最新作『ドルヲタネバーダイ』は、ドルヲタとして生きてきた10年を捧げたアイドルが引退して自死を選んだ主人公が、高校2年生に戻り、初恋の人にもう一度出会うために、青春を生き直す転生ラブコメだ。
第一巻を刊行するにあたり開催するイベントや、現在進行形で推しているアイドルなどについて語ってもらった。(前後編の後編)

【画像】『ドルヲタネバーダイ』第1話を読む【14点】

——単行本発売日の8月28日(木)に香川県高松市で「タナフェス『ドルヲタネバーダイ』トーク&サイン会 in 高松」を開催します。たくさんのアイドルも主演しますが、なぜ高松なのでしょうか。

田辺 1年前くらいに『ドルヲタネバーダイ』の連載準備を始めたんですが、さらにその1年前に『週プレ』で連載していた『AKB48グループ4コマ劇場 よんぱち+』が終わっているんです。「『よんぱち+』が終わって1年以内に次の連載を決めよう」と心に決めて頑張った末に、ようやく連載させてもらえることになったんですが、「この作品で青春をやり直すぞ!」という思いを背負っていたせいか、ペンが入らないというか、第1話の原稿に入り込めなかったんです。その時期に、たまたまSTU48福田朱里が主催している「フクフェス vol.3」(2024年9月7日開催)というイベントを香川まで観に行ったんです。

――どんなフェスなんですか?

田辺 アイドルとバンドの融合みたいなフェスで、そのときは「青春」をテーマに福田朱里がセレクトした16組が出演していました。Festhalle、高松MONSTERという二つライブハウスで同時進行していたんですが、バンドはいいかなと思ってアイドルを観ていたんです。でも、せっかく香川まで来たんだからバンドも観てみようと。ただセックスマシーン!!や175R、ガガガSPなどが出演していたんですが正直、自分の青春ソングではない。でも、めちゃめちゃ良かったんですよね。というのも歌っている方々が40代で、ほぼ僕と同世代なんです。
MCで「いまだに俺らは20年前の青春ソングを歌っていて笑われることもあるけど、別にいいよな。恥ずかしくなんかないし、俺らは歌うぞ」みたいなことを話したら、客席も僕と同世代が多いから盛り上がりがすごかったんです。それを見ていたら、「俺ももう一回青春をやっていいんだ」と思えたんですよね。

――それは熱いですね。

田辺 あと「福田朱里という子が俺らの曲を好きだと言ってくれたんだ」と話していて。福田朱里は「永遠の22歳」と自称しているんですが(笑)、二十代の女の子が肯定してくれることに対して、バンドの方たちはちょっと照れくさそうなんだけど、すごくうれしそうなんですよ。そりゃそうですよね。世間からは白い目で見られることもあるかもしれないけど、二十代の女の子が好きだからという理由で主催のフェスに呼ぶ。それはうれしいに決まっているじゃないですか。そのときに僕も福田朱里から、「田辺! ドルヲタに戻って漫画を描け!」と言われた気がして。それで1話の原稿に入り込んで描き終えることができたんです。

――無言のメッセージを受け取ったと。


田辺 そういう経緯があったので、1巻を出すときに、「帯は福田朱里で行きたいです」と伝えたら、快諾していただいて。さらに刊行記念イベントで対談ができないか、そこで今お話ししたことを伝えたいなと。だったら客を入れちゃおう、場所は香川がいいねと、とんとん拍子で話が進んでいったんです。実は僕、その間に「フクフェス」のロゴを担当するようになったんです。「フクフェス」のロゴを描いているんだから、ちょっと変えたら「タナフェス」になるなと。フェスと銘打つなら、もっとアイドルを呼ぼうかと話をしているうちに、どんどん膨れ上がって恐ろしいことになっているんですが……。それで、「タナフェス」を高松で開催することになりました。

――「タナフェス」には福田さんも出演しますが、恩返しみたいなものですね。

田辺 高松は漫画の舞台でも何でもないんですけど、僕にとっては聖地というか。あの日、高松に行ってなければ、この原稿はなかったと思っているから、どうしても帰りたかったんです。

――ここからは田辺先生が最近注目しているアイドルグループを教えていただけますか。

田辺 CANDY TUNEが大好きで、「倍倍FIGHT!」には本当に勇気づけられています。
あの曲はキャッチーなだけじゃなくて、ものすごい応援歌なんですよね。それにメンバーの村川緋杏は、彼女が前のグループでデビューしたときから何回も取材させてもらっていたので、思い入れもあります。あとはSTU48ですね。あまりにも好き過ぎて、勝手にメンバーをファンシーキャラにして全員分を描いて、Xで毎日更新したんです。そしたらファンの方もメンバーも運営の方も気に入ってくれて、公式グッズになりました。つい最近もメンバー全員分のアクキーが販売されたりと、もう仕事と遊びに境界線がないですね(笑)。

――STU48の魅力は何でしょうか?

田辺 48グループの中でも特殊な存在で、まずちゃんとした劇場がないし、チーム制でもないし、ミニスカも穿かない。どちらかというと坂道グループっぽいんです。でも歌っているのは48グループらしい曲で、瀬戸内のことを歌っている。その違和感というか、48グループの法則から、ちょっと崩れているのが良いなと思います。もっと東京で観たいのですが、地元を大切にしているところも好感が持てます。

――最近のアイドルシーンはどのように捉えていますか?

田辺 カワラボ(KAWAII LAB.)旋風がすごいですけど、それがオタクを肯定しているかというと、ちょっと違うのかなと。
ブームは良いことだけど、カジュアル層がたくさん遊びに来ているという印象で、K-POPブームのときと似ているんですよね。EDMブームでも同じことが起きましたが、K-POPを真似するアイドルがたくさん生まれて、オタクが離れるということがありました。

その点、STU48は昭和歌謡風の曲を出したりして、真裏を打っているんです。これは秋元康さんの戦略だと思うんですが、時代の風が急に変わったときに、一気に裏返る可能性があるので、AKB48が流行っているときに乃木坂46を用意して、さらに欅坂46を用意していた。僕は俯瞰してブームを見てしまうところがあるんですが、TikTokとかって流行の移り変わりが早いので、ちょっと怖いですよね。ブームに乗りたい気持ちも分かるんですが、中途半端になっているグループを幾つも見ます。

――今勢いがあるところだと、とき宣(超ときめき♡宣伝部)はいかがですか?

田辺 流行りじゃなくて、努力の上で今の人気を掴み取ったのが熱いですよね。上手くライト層も取り込んでいるので、オタクも根強く残っているところが強みですね。それで言うとCANDY TUNEも強いと思います。カワラボの中で、オタクとコール・アンド・レスポンスが一番できているのはCANDY TUNEだと思うんです。だからライト層はもちろん、オタクの心も掴んでいるのではないでしょうか。僕も見習ってライト層に受けるような漫画を……とは思いつつ、ひとまずドルヲタネバーダイをオタクたちの元に届けたいですね!

▽『ドルヲタネバーダイ(1)』
2025年8月28日発売
著者:田辺洋一郎
出版社:双葉社
価格:792円 (本体720円)

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