2023年に公開されたインディーゲーム『8番出口』。YouTubeでの実況動画をきっかけに多くの人が知るこの作品が、まさかの実写映画化。
シンプルな世界観は「どう映画化するのか?」と疑問も呼んだ。主演の二宮和也と制作陣が挑んだのは、自由度の高い原作に肉付けし、スリルとメタファーに満ちた映画体験を生み出すことだった。

【画像】二宮和也主演『8番出口』【2点】

インディーゲームクリエイター「KOTAKE CREATE」による2023年の同名ゲームを原作とした本作。その内容は、ループする地下鉄通路に迷い込んでしまった一人称視点の主人公が「異変」を探しながら脱出を試みる、というシンプルなものだ。その中にはスタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980)を思わせる演出もあり、シンプルながら観る者を夢中にさせる仕掛けが目を引いた。また、普段ゲームをしない人でも、YouTuberのプレイ動画が頻繁に投稿されていたことで存在を知った人は少なくないだろう。ちなみに、今作にはHIKAKINもカメオ出演している。

そんな『8番出口』がどのような経緯で映画化されたのかというと、『君の名は。』(2016)や『天気の子』(2019)といった新海誠作品のプロデューサーとして知られる川村元気と、『父 帰る』(2003)で共同監督を務めた平瀬謙太朗のコンビによる『百花』(2022)が、海外では評価されながらも、興行的には失敗したことが大きい。そこで「海外でも衝撃を与え、かつ興行的にも成功する作品とは何か」と模索する中で、『8番出口』の映画化に辿り着いたのだ。

ゲームがあまりにもシンプルな内容であるため、映画業界からは「どうやって映画化するのか?」という疑問が飛び交い、映画化のニュースを知った人々も同じように驚いただろう。そう、この反応こそが狙い通りだった。


シンプルだからこそ、逆に肉付けを行い独自のストーリー性を持たせることができる。ある意味、自由度が高い一方で、原作の世界観を損なわないという利点も大きかった。さらに主演の二宮和也は、主人公を演じるだけでなく積極的に脚本に関わり、キャラクターに奥行きを与えていった。設定を追加しては削り、常に試行錯誤を重ねながら制作が進められたのだ。

ゲーム版同様に「次に何が起こるかわからない」スリルやホラー風味に加え、映画ならではのスケールで展開されるメタファー演出も見どころだ。ラヴェルの名曲「ボレロ」やエッシャーの騙し絵「メビウスの輪」など、ループを連想させる仕掛けが随所に散りばめられ、観客を飽きさせない映像表現が徹底されている。

ゲーム版は一人称で人格を感じさせるキャラクターが登場しないため淡々と進むが、今作では生身の人間がループ空間に閉じ込められる設定により、『CUBE』(1997)のようなソリッド・シチュエーション・スリラー的要素も際立つ。喘息を抱える主人公が体力的にも精神的にも追い詰められていく様を、リアルに描き出しているのだ。二宮にとっても、登場人物が極端に少ない環境は常に演技力を試される場であり、その点で主人公の心情とリンクする部分もあったのではないか。

心の距離が離れてしまった恋人との間に子どもができたと知った主人公が、「自分は本当に親になれるのか」「彼女とやり直せるのか」と葛藤する中で現れる謎の空間。それは希望に繋がる試練なのか、それとも終わりなき煉獄なのか。主人公の精神世界と直結した個人的な空間なのかと思いきや、さらに驚くべき展開が次々に訪れる。
実際、カンヌ国際映画祭で上映された際には、多くの考察が飛び交ったという。

本作を観たあとに実際の駅通路を歩くと、どうしても『8番出口』を思い出し、意識してしまう。鑑賞後に「自分の身にも何かが起こっているのでは」と錯覚させることも、この映画の狙いのひとつなのだ。

【クレジット】
原作:KOTAKE CREATE「8番出口」
配給: 東宝
監督: 川村元気
脚本: 平瀬謙太朗、川村元気
音楽: Yasutaka Nakata (CAPSULE)、網守将平
キャスト: 二宮和也、河内大和、浅沼成、花瀬琴音、小松菜奈
公開日: 2025 年 8 月 29 日(金)
(C)2025 映画 「8番出口」製作委員会
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