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映画『国宝』は、任侠の家に生まれながら歌舞伎の世界へと飛び込み、芸の道に人生を捧げた男の物語。吉沢亮演じる主人公・立花喜久雄は、さまざまな犠牲を乗り越え、人間国宝へと登り詰めていくが、その犠牲の一人ともいえるのが、見上愛演じる芸妓「藤駒」だ。
彼女は、京都の花街で喜久雄と出会い、まだ無名だった彼の役者としての才能をいち早く見抜く。「私を2号さんか3号さんにしてよ」と迫り、やがて喜久雄との間に娘をもうけるが、彼が三代目花井半二郎を襲名するタイミングで縁を切られてしまう。
短い出番ながらも、藤駒は観客の心に強く残ったはず。その説得力を生み出したのは、独特のオーラをまとった見上自身の存在感だ。凛とした強さを漂わせながらも、どこか影を宿した佇まい。落ち着いた雰囲気のなかに、幼さと艶っぽさを同時に感じさせるアンバランスさこそ、彼女ならではの個性といえる。
その魅力は、2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』で演じた藤原彰子役でも発揮されていたが、『国宝』の藤駒は、それ以上に彼女の持ち味が存分に生かされた役柄だったのではないだろうか。
かわいらしさの奥に品格があり、さらには艶をも感じさせる芸妓という難役を、一瞬の登場シーンでも見事に体現してみせた見上。吉沢亮や横浜流星による女形の姿も目を見張るほど美しかったが、その傍らで彼女の儚げな佇まいに息を呑んだ観客も少なくなかったのではないだろうか。
三代目花井半二郎を襲名した喜久雄は、ひょんなことから人生が一転し、華やかな舞台から一気に遠のいていく。再び表舞台に立つため、喜久雄が目を付けたのが、梨園のお嬢様「彰子」である。
この彰子を演じた森七菜もまた、ひときわ目を引く存在だった。そもそも森といえば、チャーミングな笑顔に親近感のある素朴さが魅力で、天真爛漫な女の子というイメージが強い。『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)で演じたヒロイン・蒼井夏海は、まさに“森らしさ”の詰まった役柄だろう。
しかし映画『国宝』で演じた彰子は、はじめこそ妹のような無邪気さを感じさせたものの、すべてを捨てて喜久雄とともに家を出た後から一変。旅役者として各地を巡る喜久雄の支度をテキパキと手伝い、時に重い荷物をも運ぶ姿は、これまでの可憐で無邪気なイメージを一新し、芯のある女性としての存在感を印象づけていた。
また作中ではベッドシーンにも挑戦し、可愛らしさだけでなく、成熟した女性らしい魅力も垣間見せた森。そのギャップに驚かされるとともに、女優としてのさらなる飛躍を予感させる。
歌舞伎の世界を描く本作だが、真の見どころは、息を呑むような演技で物語を彩る女優たちの魅力にあるのかもしれない。
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