今秋のドラマは、2000年代初頭にトレンディドラマを牽引したベテラン俳優が主演を務める作品が多く、注目を集めている。本記事では、筆者がそれらの中でも特におすすめしたい3作品を紹介する。


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唐沢寿明主演「コーチ」(テレ東)

唐沢寿明主演の「コーチ」(テレ東・BSテレ東)は堂場瞬一による同タイトルの傑作警察小説を原作にした作品だ。悩みを抱える4人の若手刑事が向井光太郎(唐沢寿明)と出会い、成長していく姿を描く異色の警察エンターテインメントである。

唐沢が扮する光太郎は伸び放題の白髪を後ろで1つにまとめ、無精ひげが目立ち、野暮ったい雰囲気がある。2003年・2004年に放送された「白い巨塔」(フジテレビ系)の財前五郎や、2009年・2010年に放送された「不毛地帯」(フジテレビ系)の壹岐正といった、洗練されたエリート男性の役柄のイメージが強い唐沢だが、今回の姿はそれとは異なる印象を与えるかもしれない。「コーチ」における光太郎も警視庁勤務、かつ若手を育てる立場にあることからも能力の高さは察するが、五郎や正とは異なるタイプなのは確かだ。とはいえ、2025年1月に公開された映画「九十歳。何がめでたい」で演じた編集者・吉川真也のように、唐沢は洗練されたルックスに恵まれながらも、どこか親しみやすい垢抜けなさがあり、真心あふれる人物を魅力的かつコミカルに演じる力があることを忘れてはならない。唐沢が光太郎をどのように演じるのか楽しみだ。

今の時代、人を職場で育てるのは難しい。部下に注意やアドバイスをすればパワハラ認定されるリスクがあるし、“職場の人とはプライベートでは関わりたくない”と公言する人も珍しくない。そうした中、光太郎はコーチとして若手刑事に寄り添うが、彼らにとって“人生のコーチ”となる予感がする。

本作は、部下と上司の深い関わりが持つ意義や、他者との交流を通じて育まれるものについて考えるきっかけとなりそうだ。


◆妻夫木聡主演「ザ・ロイヤルファミリー」(TBS系)

妻夫木聡主演の「ザ・ロイヤルファミリー」は早見和真の同名タイトルの小説を原作にした作品だ。本作は競馬の世界を舞台に繰り広げられる人間と競走馬の20年にわたる壮大な物語である。

妻夫木が演じる栗須栄治は大手税理士法人に勤める税理士だ。税理士事務所を営む父を尊敬し、税理士となったものの、挫折を味わったことをきっかけに希望を失った。人生の低迷期に出会ったのが、人材派遣会社・株式会社ロイヤルヒューマンの創業社長で、有名な馬主である山王耕造(佐藤浩市)であった。栄治は耕造との出会いにより、突然止まった人生が大きく動き出す。

妻夫木の代表作といえば、2004年に放送された「オレンジデイズ」(TBS系)を思い浮かべる人が多いと思う。 結城櫂(妻夫木)と聴覚障害を抱えた萩尾沙絵(柴咲コウ)の恋の物語は多くの視聴者の心をとらえ、平均視聴率は17%を超える大ヒット。本作で“さわやかなイケメン俳優”として人気を博した妻夫木であるが、約20年の時を経た今、魅力はさらに深まった。これは、2025年上半期に放送された連続テレビ小説「あんぱん」(NHK総合)での八木信之介の演技にも当てはまる。ミステリアスでありながらも、素朴であたたかみのある人柄を好演した。「ザ・ロイヤルファミリー」でも妻夫木は人生の悲しみも喜びも深みのある演技で表現し、視聴者の心を動かすはずだ。


また、本作は脇を固める俳優陣が主役級ばかりであることも話題となっている。佐藤浩市、黒木瞳、目黒連らの演技も楽しみだ。

天海祐希主演「緊急取調室」(テレビ朝日系)

天海祐希主演の「緊急取調室」は2014年にシーズン1が放送され、今年の12月に公開される劇場版「緊急取調室 THE FINAL」で幕を閉じる予定だ。真壁有希子(天海祐希)らキントリメンバーが劇場版で立ち向かうのは、内閣総理大臣(石丸幹二)という最強の敵である。今秋放送の第5シーズンには劇場版に連動するエピソードが盛り込まれているといわれているが、10月中旬から年末にかけての楽しみとなりそうだ。

過去のシリーズでは、社会から孤立し、死体遺棄の罪を背負うことになった3人の主婦(シーズン1・5話)、孤独を抱えた女たちの心にすっと入り込んで金を巻き上げる恭子(鶴田真由)(シーズン2・6話)など、孤独や人に言えない悩みを抱えた被害者・被疑者が登場した。

シーズン1の1話で、小石川春夫(小日向文世)は「取り調べはわずか50cmなんだ。今の世の中、こんな短い距離で長い時間語り合うのは、恋人同士か取調室の星と刑事くらいだよ」と有希子に伝えていた。一定の距離感を保った付き合いが求められる現代では、他人と真正面から向き合う機会はそう多くない。人間にとって目を背けていた内なる部分と向き合うのは苦しいが、その姿を間近で見る人も悲しみや怒り、同情などさまざまな感情を掻き立てられる。

最後に、筆者が考える本作における個人的な魅力は、キントリメンバーが年齢を受け入れている姿にある。有希子は「おばはん」という愛称を受け入れているし、春夫は腰痛サポートベルト姿で登場したこともあった。
彼らを見ていると、年齢を重ねても走り続ける希望が湧くだけでなく、何度も人間の闇を目の当たりにしながらも“青さ”を失わない純真な心に、“こんな人間もいるんだ”と思わせられる。

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