乃木坂46卒業から1年あまりが経ち、ドラマや映画で着実に役柄を広げている山下美月。10月3日公開の映画『火喰鳥を、喰う』(本木克英監督)でヒロイン・久喜夕里子を演じた。
人の執着の感情が怪異を引き起こし。日常が狂っていく様を繊細に表現した彼女に、作品への姿勢や毎日の中で“執着”といえるほど大切にしていることを聞いた(前後編の後編)

【写真】映画『火喰鳥を、喰う』で新たな一面を見せた山下美月の撮り下ろし【5点】

――本作の結末には、人の「執着」の感情がキーになっていきます。執着というか、山下さんご自身が「これだけは譲れない」と考えているものはありますか?

山下 お仕事では、絶対に妥協したくないです。いただいたお仕事は、生半可な結果で終わりたくないし、最後までちゃんとやり切りたいと毎回心に決めています。逆にプライベートでは、執着が薄い性格かなと思います。

――妥協したくない、といえば、これからのドラマ『新東京水上警察』(フジテレビ系)に臨んで一級船舶免許も取得したそうですね。そういったモチベーションはどこから来るのでしょうか?

山下 自分のためというより、誰かのために頑張るという気持ちのおかげだと思います。出演した作品を観て、「面白かった」「楽しかった」と言ってくださる方の声が、一番励みになります。朝ドラの『舞い上がれ!』に出ていた時も、私が演じた久留美への反響をいっぱいいただきました。久留美が苦労の多い子だったので「幸せに生きてほしい」という感想をたくさんもらって、誰かの心を動かせたのかもしれないと実感できて、うれしかったです。

――一方で、プライベートではあまりこだわりがないというのは?

山下 人に見られるお仕事をしているからこそ、自由を大切にしたいんです。世間からの見られ方を気にしたり、プライベートで出歩くときにも少し気を使ったりと、どうしても制約はあります。
でも、その中でも「自分は何にも縛られていない自由な存在だ」と実感できる時間がほしいんですね。だからこそ、友達や家族と自分らしく過ごせる時間は大切にしています。

――では、そんな仕事から解放された時間は、どのように過ごしていますか。

山下 結構アクティブに動いていますね。急に思い立って1人で旅行に行ったり、新しい習い事を始めたり。でも飽きてしまうこともあって(笑)、また次へ、という感じです。逆に、継続して熱中しているものって意外とないですね。ドラマや映画を見るのはずっと好きなのですが、見ているとお仕事のことも頭にちらつくので、完全な趣味とまではいかないかもしれません。

――乃木坂46を卒業してから1年強、お芝居も連続ドラマ初主演の『電影少女』や『神酒クリニックで乾杯を』の頃から6年になります。経験も積んできたと思いますが、演じる上での仕事観はありますか?

山下 どうでしょう…「一生お芝居をやっていける」という決意や実感は持っていないし、これからも抱くことはないように思います。もちろん、お芝居をすることはすごく楽しいですし、面白いエンタメを届けていきたいです。でも「自分はこのお仕事、向いてない側の人間なんだろうな」と思うことの方が多いです。


――それでも続けていられるのは、俳優としての山下さんを評価してくれる、そして推してくれる方々のため、ですね。

山下 そうですね。自分のために頑張るということができないタイプなので、誰かにほめていただいたり、「楽しかった」って言っていただける声があるから頑張れます。どんな作風でも、呼んでいただけるのは私に期待してくださってのことですので、「真面目にやるしかない」と思い切って現場に向かっていますね。今でも「画面の中の自分が全世界に放たれる」と思うと少し恥ずかしいのですが、やっぱり私を信じてくれた皆さんのために頑張ろうというのが、続けていける一番の理由です。

(プロフィール)
山下美月 やました・みづき 1999年7月26日生まれ、東京都出身。2016年9月に乃木坂46に3期生として加入。ドラマでは『電影少女 -VIDEO GIRL MAI 2019-』(2019)、『じゃない方の彼女』(2021)、NHK連続テレビ小説『舞い上がれ!』などに出演。ほか、映画『映像研には手を出すな!』(2020)では齋藤飛鳥梅澤美波とともに主演。2024年5月に乃木坂46を卒業した。2025年はドラマ『御曹司に恋はムズすぎる』、映画『山田くんとLv999の恋をする』に出演してきたほか、10月から放送のドラマ『新東京水上警察』(フジテレビ系)、さらに映画『愚か者の身分』(10月24日公開)、『新解釈・幕末伝』(12月19日公開)に出演する。

【前編】山下美月、『火喰鳥を、喰う』で見せた“静かな狂気”「本心が分からない違和感を感じて」
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